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【商業】「なにもない」を「変えた」商業施設ー「モラージュ菖蒲」

 先日、北関東のユニークな商業施設について特集し、ご好評をいただきました。しかしユニークな商業施設は北関東のみにあるわけではありません。そこで今度は東京に近く、ロードサイド文化が花開く埼玉県に照準を当ててみたいと思います。今回は埼玉県久喜市(旧菖蒲町)にある「モラージュ菖蒲」という商業施設をとりあげてみようと思います。

 

モラージュ菖蒲とアクセス拠点となる高崎線桶川駅、東北本線(宇都宮線)久喜駅の位置関係(OpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

 

意外なところにできた商業施設

 JR高崎線桶川駅東口からモラージュ菖蒲へ向かうバスで30分。桶川の市街地を抜け、田んぼの中をしばらく走ると旧菖蒲町(久喜市)の中心市街地に着きます。旧菖蒲町の中心市街地を抜けると突然左側に要塞のような、壁のような巨大な施設が見えてきます。これが、菖蒲の知名度を一気に引き上げた「モラージュ菖蒲」なのです。

 モラージュ菖蒲が計画されたとき、埼玉県南埼玉郡菖蒲町は当時人口2万人の小さな町でした。鉄道も通らず、ナシやイチゴの生産で知られていた菖蒲町での大規模商業施設の計画が明らかになったのは、遅くとも2006年頃のようです。もともと中心市街地を東西に貫く国道122号線のバイパスとして市街地の北側では騎西菖蒲バイパスの工事が進められており、その周辺では都市再生機構(UR)による土地区画整理事業「菖蒲北部土地区画整理事業」が1998年より行われていました。物流機能と複合産業施設機能が開発区域の大半を占める形の土地区画整理事業でしたが、そのうちの複合産業施設用に確保されていた土地への出店でした。

 

モラージュ菖蒲の全景。さらに奥側にも施設があり、全容が写せない(撮影:かぜみな・2017年)

 

 「モラージュ菖蒲」は総合商社である双日とその子会社である双日商業開発によって開発され、敷地面積は14万3千㎡、延べ床面積14万㎡という巨大な店舗に、260店のテナントで初年度年商300億円という、町にとって前例のない規模の商業施設として計画され、2008年の11月の開業が目指されました。当時整備中だった騎西菖蒲バイパスは、まだ計画段階にあった圏央道の白岡菖蒲ICに接続する予定となっている道路でもあり、将来的に広域での集客を見込めると判断したようです。
 しかし、現実はそう甘くはありませんでした。開業の直前になってもテナントが十分に集まらず、開業2か月前の2008年9月になっても、テナントが230ほどしか集まらず、すべての区画を埋めてのオープンが不可能となってしまったのです。

 この要因として大きかったのは「立地条件の悪さ」でした。交通面での利便性は好立地とされていながらも、それは予定されている道路整備がすべて完了する前提で満たされるものであり、おそらくテナントを誘致している段階では将来のイメージはしづらかったのではないかと思います。また周辺地域では同時期に「ビバモール加須(2006年開業)」や「イオンモール羽生(2007年開業)」などといった大規模商業施設が相次いで開業しており、「競合施設」の分布としても、不利な場所にあったのです。そのためにテナントが集まらず、業界の関係者には「集客合戦になったときに、(モラージュ菖蒲に)広域から客がいく理由が見当たらない」とまで言われる始末でした。つまり、それほどまで、「モラージュ」ができる前の菖蒲町は「わざわざ行く場所ではない」といったイメージだったのでしょう。

 

現在は240店舗のテナントで営業中(撮影:かぜみな・2017年)

 

 結局10ほどのテナントが埋まらず、250のテナントを揃えた状態で、2008年11月28日に「モラージュ菖蒲」は開業しました。6月には騎西菖蒲バイパスが開通しており、懸念されていた交通の利便性はひとまず確保された形での開業でした。開業時のプレスリリースにも「2008年6月7日の122号バイパスの開通により南北方向の交通アクセスが『改善』されたのを始め、東西方向の道路も順次整備が進んでいます(『』は筆者による追記)」とあり、立地の悪さがかなり不安視されていた様子が見てとれます。
 開業後もテナントの退店が続くなど、非常に難しい運営を迫られたようですが、運営会社の尽力もあってか少しずつ改善の様子が見られるようになっていきます。2011年頃にはインターネットなどにも店舗が入れ替わるにつれ使える店が増えてきたといった声が見られ、2013年には過去4回出店を断られたというユニクロの誘致を実現したりするなど、徐々にモラージュ菖蒲の、そして菖蒲という地名のイメージを向上させていきました。

モラージュ菖蒲のいま

 モラージュ菖蒲は現在約240店舗で運営されており、核テナントとしてスーパーマーケットのヨークマートフードセントラル、109シネマズ、スポーツ用品のヒマラヤ、トイザらス、ホームセンターのナフコなどが入居しています。細かいテナントの入れ替わりは起きているようですが、核テナントそのものは比較的定着している印象です。
 店舗は非常に細長く、長辺方向では500mもの長さがあるため、モール内に1~7番街の区分がなされており、テナントの位置も基本的にその番号で案内されています。

 

裏側からみると、まるで長大な壁のよう(撮影:かぜみな・2017年)

 
 鉄道が周辺を走っていない立地であるため、自動車での来店が主となっているようです。開業後に駐車場が不足したのか、土地区画整理事業区域からはみ出す形で隣接する農地が平置きの駐車場へと整備されています。
 クルマでの来店が主となっていますが、路線バスもJR高崎線桶川駅、JR東北本線(宇都宮線)久喜駅から運行されています。ただ交通広場などが整備されているわけではなく、桶川行きと久喜行きのアクセスバス(一部バス停通過で運賃が通常より安い)、そしてモールの前を通過する一般の路線バス、そして土休日に運行される久喜行きの路線バスの急行便の乗り場がすべて違う場所にあり、館内にも案内が少ないため、分かりにくくなっています。
 

モールの裏側にある桶川駅行のバス停(撮影:かぜみな・2017年)

 
 開業時は半径10~15km圏を商圏として設定していたようですが、広域集客が可能な圏央道の開通を2015年まで待つこととなったの(白岡菖蒲ICそのものは2011年に開業)が響いているのか、5km~10km圏に収まる、特に足元商圏と言える久喜市と加須市が現在の集客の中心となっているようです。特に南側の高崎線方面に弱いとされており、桶川市方面への商圏の拡大を狙っているようです。急行バスが発着する桶川駅にも広告看板を用意して集客に取り組んでいますが、高崎線方面は「アリオ上尾」や、「ベニバナウォーク桶川」といった大規模商業施設が相次いで立地しており、その競争は厳しいものがあります。

ゼロからイチへ、イチからニへ

 現在モラージュ菖蒲の南側の土地で造成工事が開始されています。なんのための造成工事なのか明らかにはなっておらず、「コストコが出店するのでは?」といった憶測が広がっています。公式情報はなく、その真偽は明らかではないのですが、隣接地には2010年に大和ハウス工業によるショッピングモール「フォレオ菖蒲」も開業し、「行く理由が見当たらない」とまで言われたモラージュ菖蒲の状況は、コストコやIKEAの出店の噂が立つまでに劇的に変化しました。

 

モラージュの隣にあるフォレオ菖蒲(撮影:かぜみな・2017年)

 

 以前紹介したFKDインターパーク店やファッションクルーズニューポートひたちなかと同様に、商業施設が街の性格を変えた例の一つとして捉えることができそうです。ただ上に述べた2つの商業施設と違うのは、開業当初そのかじ取りに苦労したということです。元からブランド力がなく、ゼロのブランドをイチへ変えていくその様は、商いとしての本質を見るような思いがあります。

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参考文献

モラージュ菖蒲HP:http://www.mallage.com/shobu/ (2017年6月13日確認)
双日HP:http://www.sojitz.com/jp/ (2017年6月13日確認)
双日商業開発HP:http://www.mallage.com/index.html (2017年6月13日確認)
UR都市機構HP:http://www.ur-net.go.jp/index.html (2017年6月13日確認)
北本日記:http://kitamoto-nikki.keystar.jp/ (2017年6月13日確認)
「双日 菖蒲町に大型SC 11月にも開業」日本経済新聞地方経済面,pp.40,2008年1月29日付
「双日が計画のSC「モラージュ菖蒲」 テナント集め苦戦。景気悪化で出店意欲低下、施設間競争激しく。」日本経済新聞地方経済面,pp.40,2008年9月25日付

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渦森 うずめ

都市という現実の中に漏れ出す夢や理想を商業空間に見出して遊んでいます。逆にコンテンツという夢や理想から現実を救い上げるのもすき。つまりは理想と現実を渡り歩く放浪者(?)。消えそうなファーストフードチェーン「サンテオレ」を勝手に応援中。