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ホームセンターが作ったファッションモール-北関東不思議商業施設を追う:第2回

 前回の記事では、栃木県大田原市にある郊外ロードサイドでも頑張っている百貨店の話を取り上げました。今回は栃木県のお隣、茨城県ひたちなか市にある、知られざる実力派ショッピングモールをご紹介したいと思います。

ひたちなかってどこだ?

 茨城県ひたちなか市は県都水戸市の東隣に位置する、15万人の人口を抱える都市で、1994年に日立製作所の企業城下町として知られた旧勝田市と、水産業や海水浴場をはじめとする観光産業が主力の旧那珂湊市が合併して成立した自治体です。その経緯もあって一つの都市としてのまとまりは若干弱く、それぞれ勝田と那珂湊に中心性が維持されている状況です。
 市内には季節の花やロック・イン・ジャパンの開催地として有名な国営ひたち海浜公園があり、この時期はスイセンやチューリップ、ネモフィラの花などが楽しめます。また茨城港常陸那珂港区が立地しており、現在もその整備が順次進められており、産業都市としての性格もあります。
 そんなひたちなか市の東部、常陸那珂港や国営ひたち海浜公園に近い国道245号線の沿線に、今回取り上げる商業施設があります。

ひたちなか地区の様子。色分けは2006年にひたちなか地区開発整備推進協議会で策定した「留保地利用計画」において制定されたゾーン区分(OpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

武骨な見た目のショッピングモールに隠された秘密

 その名は「ファッションクルーズニューポートひたちなか」です。
 ファッションクルーズはその作りを見てみると、ショッピングモールらしからぬ、四角くて若干武骨な外観です。「ファッション」とまで名付けているのにどうして……?
 この答えは、このショッピングモールを運営している企業にあります。このショッピングモールを運営するのは「ホンダ産業」という会社なのですが、実はこの会社、茨城県土浦市に本社を置くホームセンターチェーン「ジョイフル本田」の系列会社なのです。

ファッションクルーズニューポートひたちなか。2000年代のモールにしては四角い外観が特徴(撮影:かぜみな・2017年)


 つまりこのショッピングモールは、「ホームセンター事業を行うジョイフル本田がデベロッパーとして開発した」ショッピングモールなのです。そのため建物のつくりにホームセンターらしい武骨な造作が散見されるのでしょう。ファッションクルーズの北側には「本業」であるホームセンターの「ジョイフル本田ニューポートひたちなか店」が隣接しており、建物もつながっています。
 ホームセンターがショッピングモールを運営するということ自体は珍しいことではありません。ジョイフル本田の他に「コーナン」や「カインズ」も手掛けています。その中でファッションクルーズが特徴的な点が「衣料品、雑貨、飲食店などを揃えるワンランク上のショッピングモール」を志向しているという点です。

武骨な屋上駐車場だが、店舗の実力は見た目以上(撮影:かぜみな・2017年)

 ターゲットは「20代後半~40代前半の母親」を想定、テナントの半数を茨城県内初進出(当時)のテナントとしたほか、東京都や千葉、埼玉県までも商圏として狙い、年間880万人、300億円の売り上げを目標として立てるなど、その「本気度」は並大抵でないものがあります。

ショッピングモールに「本気」な理由

 実際店内に入ってみると無印良品やコムサイズム、ABC-MARTなど、衣料品や雑貨などを強化した、イオンモールなどとそん色のない店舗構成です。同じくファッションクルーズに入居するエムアイプラザ(三越伊勢丹の小型ショップ)も賑わいを見せていて、低価格帯のテナントで構成することが多い一般的なホームセンター主導のモールとは一線を画しているように感じます。
 もともとジョイフル本田はホームセンターを1998年に当地に開業していました。ファッションクルーズはその増築という形で2006年7月に開業したものなのですが、それではなぜジョイフル本田はこの場所にホームセンターだけではなくここまで本格的なモールを作ろうと考えたのでしょうか?

敷地内にはユニクロやTOHOシネマズも独立店舗として出店している(撮影:かぜみな・2017年)

 秘密はホームセンターの客層にありました。2006年当時、ホームセンターの主要客層は男性でした。そこで、女性客の呼び込みを図りたいと考えたジョイフル本田は、衣食住の「衣食」とさらに同敷地内にあるシネマコンプレックスをはじめとする「遊」の要素を新たに加えることで、客層を広げようとしたのです。たしかにファッションクルーズのテナントは女性向けのテナントが多く、前述した通りターゲットも「母親」と明確に女性志向を打ち出しています。

 加えてこの地区特有の立地環境も影響しているようです。当地区は国営ひたち海浜公園や阿字ヶ浦海水浴場など観光資源が点在していて、さらに常陸那珂有料道路のひたちなかICが近くにあるという自動車でのアクセスが良い立地でもあります。常陸那珂有料道路はそのまま東水戸道路を経由して北関東自動車道や常磐自動車道に接続する有料道路で、広域からの集客が期待できる立地、つまり足元人口が少なめであっても、大規模ショッピングモールの勝算が立つ立地だったのです。

ファッションクルーズを生み出したひたちなか地区の開発

 それではそんな大規模モールが立地できる土地はどのようにしてもたらされたのでしょうか? 答えはひたちなか地区の開発の歴史にあります。
 もともとこの地区には旧日本陸軍の水戸陸軍飛行学校、陸軍水戸飛行場が存在していました。戦後はアメリカ軍に接収され水戸対地射爆爆撃場として利用されていましたが、騒音問題や近隣住民を巻き込んだ死傷事故などが発生したこともあり、1973年に日本政府に返還されました。
 1,182haもの規模の跡地整備方針として1981年に国有財産中央審議会から「水戸対地射爆撃場返還国有地の処理の大綱について」が答申され、国営公園や流通港湾関連施設などを核とした地区開発の方針が示されました。県市町村レベルでも1985年に「常陸那珂国際港湾公園都市構想」が提言されました。快適な環境の職場と質の高い遊びの場を融合した「ビジネス・プレジャー(職遊共存)」の実現を掲げ、

①常陸那珂港を核に人、物、情報、資本が流れる国際的な流通拠点都市
②ハイテク産業を導入する高度技術産業集積都市
③国営公園と阿字ヶ浦海岸を軸とするレクリエーション・リゾート都市

の三点が構想では言及されました。

 この頃から当開発地区のことが「ひたちなか地区」と呼ばれるようになります。1994年には前述のとおりひたちなか市が成立していますが、実はこの合併も開発計画に関連して行われたものでした。
 その後1998年から常陸那珂港が順次供用開始され、国営ひたち海浜公園の整備や港湾設備の供用も順次進むなか、国営ひたち海浜公園の西側地区では常陸那珂土地区画整理事業が行われ、都市としての整備が行われました。そうした経緯で、大規模な事業用地がひたちなかにもたらされたのです。そして、そこに開業したのがジョイフル本田ニューポートひたちなか店でした。

周辺にも様々な大規模商業施設が立地するようになった(撮影:かぜみな・2017年)


 その後2007年にファッションクルーズが開業した後もそのラッシュは続きます。同年にはファッションクルーズの西側の土地で水戸市の不動産投資会社による家電量販店や高級インテリア家具店が入居するショッピングセンターとホテルの、延べ床面積145,000㎡の複合施設の建設計画が持ち上がりましたが、資金難から計画は頓挫してしまいました。その後その場所には東京インテリア家具やケーズデンキなどが改めて進出し、2014年には地区の南側にコストコが進出するなど、少しずつではあるものの、茨城有数の大規模商業施設の集積地区として発展を遂げてきています。

ホームセンターの「チャレンジ」がまちを作った

 現在のひたちなか地区はコストコや東京インテリア家具、ケーズデンキ、蔦屋書店、TOHOシネマズ、ユニクロ、スーパーに関してもジョイフル本田内のジャパンミート以外にもサンユーストアが出店するなど、様々な業態が集まるようになってきています。
 すべてはジョイフル本田の出店にはじまり、ジョイフル本田によるファッションクルーズの開業がひたちなか地区の魅力を引きあげ、他企業の進出を後押しする大きな要因になったのではないかと思います。これが普通のジョイフル本田と同様にホームセンターのみの出店にとどまっていたら、また違うひたちなかの姿が現れていたかもしれません。
 当地区はいまだ未利用地も散見され、それだけひたちなかには伸びしろが残されていると言えます。ホームセンターのチャレンジから生まれたこのまちが、どのように変わっていくのか、楽しみです。

[参考文献]

ファッションクルーズニューポートひたちなかHP  http://fashion-cruise.jp/(2017年4月21日最終閲覧)
ジョイフル本田HP  http://www.joyfulhonda.com/(2017年4月21日最終閲覧)
茨城県HP  http://www.pref.ibaraki.jp/index.html(2017年4月21日最終閲覧)
ひたちなか市HP  https://www.city.hitachinaka.lg.jp/index.html(2017年4月21日最終閲覧)
一般社団法人日本ショッピングセンター協会HP http://www.jcsc.or.jp/(2017年4月21日最終閲覧)
日本経済新聞 地方経済面 北関東「水戸射爆場の跡地開発、国際港湾公園都市に――県調査委が提言。」1985/04/19付,pp.4.
日本経済新聞 地方経済面 「ジョイフル本田、北関東最大の複合施設――ひたちなかに7月 広域集客狙う」2006/05/30付,pp.41.
日本経済新聞 地方経済面 「関東最大級商業施設、ひたちなかで15日開業。ジョイフル本田、100店入居」2006/07/12付,pp.41.
日本経済新聞 地方経済面 「利根往来―女性が楽しく“遊”で総合化(つくば商業都市開発専務根本一男氏)」2006/07/21付,pp.41.
日本経済新聞 地方経済面 「ひたちなかに大型SC アセットパートナーズ、家電量販店など、ホテルも開設」2007/06/02付,pp.41.
日本経済新聞 地方経済面 「ひたちなかのSC計画、資金難で開発進まず。月末めど、見直し判断へ」2008/01/16付,pp.41.
日本経済新聞 地方経済面 「ひたちなか市の開発地区 県、事業者を再募集」2008/08/05付,pp.41.
日本経済新聞 地方経済面 「ひたちなかに大型商業施設 ケーズHDなど」2010/02/27付,pp.41.
日本経済新聞 地方経済面 「ひたちなかに来春出店 コストコ、北関東3ヵ所目」2013/03/20付,pp.41.

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渦森 うずめ

都市という現実の中に漏れ出す夢や理想を商業空間に見出して遊んでいます。逆にコンテンツという夢や理想から現実を救い上げるのもすき。つまりは理想と現実を渡り歩く放浪者(?)。消えそうなファーストフードチェーン「サンテオレ」を勝手に応援中。