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宇都宮に福田屋あり!北関東を変えた巨大「百貨店」-北関東不思議商業施設を追う:第3回

 栃木県宇都宮市と河内郡上三川町の市町境にある、北関東自動車道の宇都宮上三川ICを下りると、目の前に、広大な敷地に大規模な郊外型商業施設が複数立ち並ぶ様子が目に飛び込んできます。その一角、インターチェンジ正面にあるひときわ大規模な商業施設が、今回取り上げる「FKDショッピングモール宇都宮インターパーク店」です。

どこにもない郊外「百貨店」

 「FKDショッピングモール宇都宮インターパーク店(FKDインターパーク店)」は2003年に開業した大規模商業施設で、駐車台数8,800台、別館のような扱いとなるIPSビレッジ、IPSスタジアムを含めた売場面積が62,600㎡、敷地面積では227,847㎡、東京ドーム5個分弱というとてつもない規模の商業施設となっています。メインとなる「FKDインターパーク店」は、食料品、衣料品からアミューズメントまで、多様な施設を入居させた施設となっています。

 

FKDショッピングモール宇都宮インターパーク店。正面幅は180mもある(撮影:かぜみな・2016年)

 

 店名にある「FKD」は「FuKuDaya」の略で、この商業施設を運営する「株式会社福田屋百貨店」のことを指します。そう、実はこの「FKDインターパーク店」は「百貨店」によって運営されているのです。しかしながら店舗を見てみると、いわゆる「百貨店」らしい高価格な商品で固めることはしておらず、お客さんのターゲットは一般的に百貨店がターゲットとする中高年層ではなく、「平成ニューファミリー」と呼ばれる20代~30代前半の家族層です。

 家族層がターゲットとなると、売り場はイオンモールをはじめとするショッピングモールのようなものになりそうです。しかし、FKDインターパークを覗いてみると、あくまでも「百貨店的」なジャンル毎に束ねて直営売り場とテナントを混在させる売り場づくりをしていま。一方で食品売り場は直営のセルフサービス方式の売り場(いわゆるスーパーのような集中レジで会計するスタイル)が大きな割合を占めていて、百貨店らしい対面販売の「デパ地下」らしいエリアは広くありません。この店舗の特徴的なところは、規模だけなく、「百貨店でもモールでもない店づくり」が見られるという点にあります。
 それではどうして宇都宮の地場百貨店「福田屋百貨店」が、こういったどの枠にもはまらない郊外の大規模商業施設を運営するに至ったのでしょうか。

宇都宮に「福田屋」あり-攻めと革新の歴史

 福田屋百貨店は1934年に宇都宮市内に開かれた紳士服・子供服店にその起源があります。第二次世界大戦後び1962年から「百貨店」として営業を開始しました。前々回の記事で紹介した上野百貨店が戦前から百貨店として営業していたのに比べ、福田屋百貨店は、その歴史が浅かったこともあり、伝統と外商の力で存在感を放つ上野百貨店とは対をなす「大衆百貨店」路線へと舵を切る店づくりを展開していくことになります。食品、雑貨部門で百貨店初のセルフサービス方式を採用したり、「中級品の品ぞろえと安さ」を武器としたりして、独自の商売を広げてきました。
 しかし、高度経済成長期以降、丸井や西武百貨店をはじめとする県外資本の参入が宇都宮市街地には相次ぎ、宇都宮中心市街地の商業戦争が熾烈なものとなりました。その中で売場面積が小さい福田屋百貨店は1970年代から百貨店の多店化を模索することとなります。市街地にある本店の抜本的増床は現実的でない中、広大な店舗が建設できる郊外へ出店し、「郊外脱出」を図ることが社内では検討されるようになっていきます。1979年には市街地北部の今泉に約30,000㎡の敷地を購入しており、郊外マーケットに対する先見性はかなり早い段階からあったと言えそうです。

 

中心市街地に相次いで出店した県外資本の一つ「西武百貨店宇都宮店」跡。現在はMEGAドン・キホーテとなっている(撮影:かぜみな・2014年)

 

 その後はしばらく郊外出店のチャンスをうかがっていましたが、1990年代に大規模店舗の出店規制緩和が行われ、ようやく郊外移転ができるようになりました。そして、1994年に今泉地区の社有地に「FKD宇都宮店」を開業し、本店をこちらに移転します。1994年に開業したFKD宇都宮店は、クルマでの来店を前提とした、地方百貨店の新たな形として、宇都宮商業界のみならず、業界関係者から多くの注目を浴びたようです。FKD宇都宮店は業績も好調に推移し、この移転に伴い、中心市街地にあった宇都宮本店は閉鎖され、福田屋百貨店は郊外への「脱出」を成功させたのでした。

 

福田屋百貨店の郊外進出1号店である「福田屋ショッピングプラザ宇都宮(FKD宇都宮店)」(撮影:かぜみな・2014年)

 

 FKD宇都宮店の好調を受けつつも、1990年代は購買力が埼玉や東京に流れ続けることが宇都宮商業全体の課題として持ち上がっていました。栃木県内の購買力を県内にとどめることを目標にしつつ、福田屋百貨店はさらなる大規模郊外出店について模索することになります。
 その最中、宇都宮市南部で都市基盤整備公団(現在の都市再生機構)によって造成が行われていた「東谷・中島地区工業流通業務団地(インターパーク宇都宮南)」の地区計画変更により商業・サービスの核施設が募集され、福田屋百貨店はこの地区に目を付けました。当地区では地元企業の育成が掲げられ、地元消費者を外資系や県外資本に奪われるのを食い止めるという観点から福田屋百貨店の出店が決定されました。この店舗こそが後の「FKDインターパーク店」なのです。

FKDとインターパーク

 福田屋は歴史的に郊外移転の話が目立ちますが、市街地で何もできなかったわけではありません。1987年には、同年閉店した丸井宇都宮店の跡地にDCブランドのファッションビル「EFF(エフ)」を開業しました。これにより、福田屋百貨店は若者向けブランドに強くなります。それは、丸井に出店していたデザイナーブランドと取引を持つことになり、人材も育ったことによります。ライバルの閉店が福田屋の後に郊外店で花開く若者向け施策の下地となったのです。
 そんな経緯で2003年に出店した「FKDインターパーク店」は、「FKD宇都宮店」をさらに進化させた若年層をターゲットとした郊外型百貨店として、初年度売り上げ目標250億円を達成するなど好調な業績をたたき出しました。インターパーク地区に直結する北関東自動車道の全線開業後は、栃木県内のみならず茨城や群馬方面からの広域集客にも成功し、宇都宮や栃木はおろか北関東の商業地図を塗り替えた存在として、「FKD宇都宮店」以上の注目を集めることとなります。

 

FKDインターパーク店周辺には、ロードサイド店舗が多く集積するようになった(撮影:かぜみな・2016年)

 

 店舗の周辺には福田屋百貨店の出店を契機として、大和ハウス工業系のダイワロイヤルによるショッピングセンター「カトレアガーデン宇都宮南」やMOVIX宇都宮、ジョイフル本田宇都宮店、ケーズデンキ、東京インテリア家具なども相次いで出店しており、福田屋百貨店自身も、FKDインターパーク店の北側に衣料系のテナントを集めた「IPSビレッジ」を2005年に、「IPSビレッジ」の東側にユニクロや西松屋、直営のスポーツクラブなどが入居する「IPSスタジアム」を2008年に開業するなど拡大を続け、インターパーク地区は北関東を代表する郊外型大規模商業施設集積地区として成長したのです。

 

インターパーク地区は宇都宮中心部から8km離れたところにある。すぐ南側は上三川町になる(OpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

 

成熟したクルマ社会がもたらしたもの

 福田屋百貨店は地場企業ならではの地縁や偶然に恵まれながらも、柔軟な発想と革新的な取り組みをもって、ここまで来ました。その経営姿勢は容易に他地域に応用できるものではありません。しかし「既成概念は捨てないといけない」……福田社長がFKD宇都宮店出店後に語ったこの言葉だけは、革新の歴史を裏付けるものとして、心に刻んでおくべきもののように思います。
 大田原東武、ファッションクルーズ、そしてFKDとこれまで3回にわたり、北関東に存在する特徴的な商業施設を紹介してきましたが、すべてに言えることは「北関東の成熟したロードサイド文化によって生まれてきたもの」だということです。中心市街地にあることが当たり前だった百貨店を郊外に連れ出し、郊外ロードサイド店舗の代表格たるホームセンターがファッションモールを運営する。すべては自動車での移動が当たり前になった地域の出した答えなのだと思います。
 いわば北関東は「ロードサイド商業の先進地」ともいえる気がします。クルマ社会はますます進展する一方ですから、過去3回で紹介したような施設が、今後ほかの地域でも現れるのかもしれません。「中心市街地の活性化」も大切なことですが、郊外でもまた、地域の消費を変えうる大きな革新が起きていて、そういったある種の「最先端」にも、もっと注目されてもよいのではないでしょうか。

[参考文献] 福田屋百貨店HP:http://www.fukudaya.net/cgi-bin/index.cgi(2017年5月2日最終閲覧)
栃木県HP:http://www.pref.tochigi.lg.jp/(2017年5月2日最終閲覧)
国土交通省関東地方整備局宇都宮国道事務所HP:http://www.ktr.mlit.go.jp/utunomiya/(2017年5月2日最終閲覧)
城間奨・藤井さやか・有田智一・大村謙二郎(2008)「工業団地の用途転換による大規模商業集積に関する研究:栃木県を対象として」『(社)日本都市計画学会都市計画論文集』43-3,pp925-930.
西川仁朗(2003)「我が社の過去の業績、業界の常識を超えた店づくり・売り場づくり 福田屋百貨店の挑戦」『2020AIM-BD』,2003-11,pp.66-68.
料治宏尚・矢谷正太(2003)「FKDショッピングモール宇都宮インターパーク店の新地域需要深耕戦略」『2020AIM-BD』,2003-11,pp.69-75.
六車秀之(2003)「車で便利な百貨店がエンターテインメントの「FKDショッピングモール宇都宮インターパーク店」」『月間レジャー産業』2003-12,pp.142-145.
「福田屋百貨店系計画・北関東最大のSC、宇都宮市の北部に――文化・スポーツも。」日本経済新聞地方経済面北関東,pp.4,1986/09/13付
「福田屋、本店を移転――増床余地ない宇都宮店、商圏の変化に対応、多店化。」日経流通新聞,pp.5,1986/09/22付
「福田屋百貨店(宇都宮市)県内制覇へ多店舗戦略を推進(再生図る地方百貨店)」日経流通新聞,pp.5,1987/05/14付
「丸井宇都宮店の撤退後に、福田屋百貨店が入居。」日本経済新聞地方経済面北関東,pp.4,1987/07/23付
「福田屋百貨店丸井跡新館、「EFF」22日オープン――DCブランド中心。」日本経済新聞地方経済面北関東,pp.4,1987/11/10付
「宇都宮市南部へのSC出店発表、年商200億円狙う。福田屋百貨店」日本経済新聞地方経済面,pp.42,2001/05/19付
「アクセスのよさ際立つ、顧客はニューファミリー――FKDショッピングモール宇都宮インターパーク店(宇都宮市)」日経流通新聞,pp.14,2003/10/04付
「宇都宮に大型商業施設――ダイワロイヤル 10月開業を予定」日本経済新聞地方経済面,pp.42,2004/05/12付
「福田屋百貨店、若者向け大型商業施設。北関東道上三川IC近く、広域集客を狙う」日本経済新聞地方経済面,pp.42,2005/06/16付
「福田屋、新施設を来春開業――インターパークビレッジ隣接地」日本経済新聞地方経済面,pp.42,2007/10/18付
「福田屋、栃木店を閉店へ」日本経済新聞地方経済面栃木,2010/11/25付
「福田屋百貨店、真岡店、8月下旬閉店――用地売却も。郊外店に資源集中」日本経済新聞社地方経済面北関東,2011/06/14付

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渦森 うずめ

都市という現実の中に漏れ出す夢や理想を商業空間に見出して遊んでいます。逆にコンテンツという夢や理想から現実を救い上げるのもすき。つまりは理想と現実を渡り歩く放浪者(?)。消えそうなファーストフードチェーン「サンテオレ」を勝手に応援中。