まちに関する活動をされている方にお話を伺う企画、今回は美大生でまちに関する幅広い活動をされている「にし」さんにお話を伺います。
話し手:にし(@westantenna)……現役の美術大学生。文字を起点に鉄道・バス・路上観察など幅広い分野に目を向けて活動中。最近ではオープンソースのSNS「マストドン」のインスタンス「まちトドン」の管理人も務める。
HP:多西送信所
聞き手:鳴海行人(@mistp0uffer)……まち探訪家・matinote編集長。鉄道・バスは乗るのが好きで、調査や利用促進活動にも携わっていた。バスに関するトークライブの出演経験もある。
HP:まち探訪家の日々
デザインの道へ進むきっかけ
鳴海:にしさんはかなり精力的に活動されている印象があります。そしてバス停検索のプロジェクトをはじめかなり深いところまで突っ込んでいらっしゃいます。そんな中で、にしさんが美大生と初めて伺った時はびっくりしました。美大で交通やまちに関するところにいらっしゃる方ってあまり多くないですから。そこで、デザインの道に進まれるきっかけを伺えればと思います。
にし:美大へいく大きなきっかけはコミックマーケットですね。中学3年の時に初めて行って初めて同人誌というものを見ました。その時に文章を主体とした同人誌に興味を持ち、色々見ていて高校1年の時にフォントの同人誌と出会いました。そして翌年にその同人誌に文章を寄稿しました。こうしたことがあって、フォントつながりで進路をどうしようか考えて、普通の人と同じ進路に進んでも面白くないと思った結果、美大に進もうと思いました。親に反対されなかったことも大きかったですね。そして、美術大学で情報デザインを扱う学科に進学することができました。
鳴海:デザインとの出会いがコミックマーケットでフォントの同人誌との出会いだったとのことですが、コミックマーケットは物見遊山で行かれたのですか?
にし:そうですね、今でも漫画は詳しくないんです。コミックマーケットにいったきっかけは友人に誘われたことでした。何があるかといった知識はなかったのですが、行ってみるといろんな人が創作してそれを発表しているという熱気がすごいと思いました。見ていくうちに評論・情報系の同人誌に興味を持ち、色々探しているうちにフォントの同人誌と出会いました。文字への興味は小さいころからあったようです。小学生の時に先生が黒板に書いていた文字を興味深く見ていたり、中学校1・2年の時に出会った理科の先生のプリントのひな型に興味を持ったりしていました。
鳴海:そういうきっかけなのですね。そして翌年には寄稿(『オタクとフォント』vol.2、vol.3)と。実行力というか、「中」へスッと入っていく浸透力みたいなのは強いなぁと思います。
にし:あまり意識していないですが、あっという間にずぶずぶ入っちゃいますね。そういうところは早いみたいです。同人誌への寄稿はTwitterが起点で、作っている人がTwitterで最初にフォローした人で、合同誌の企画に「書いてみたいです」とメンションを送って、寄稿しました。うまい具合に編集していただいて。
鳴海:そして、同じく高校2年で美大に行こうと決めたのですね。勢いがすごいと思います。
にし:そういったことは迷わないのかもしれません。やったほうがいいなと思ったことは一気にやってしまいますね。
情報デザインの学生が交通・まちと出会ったとき
鳴海:にしさんが交通に興味を持ったきっかけを教えてください。
にし:まずは、幼稚園のころから鉄道が好きでした。それと、多摩地方の地図を眺めてバス路線の落書きをしていました。ただ、小学生の時には忘れていましたね。でも、近くの図書館で廃棄処分になった「鉄道ファン誌」を引き取ってきたことは大きな影響を及ぼしています。本は親が「いくらでも買っていいよ」って言ってくれたので、それも大きいですね。年齢の割には本を持っていて、現在500冊くらい持っています。
鳴海:文章を読むのが好きなんですね。いつごろからデザインと交通が結びつきましたか?
にし:同人活動で路線図を作ってからですね。大学慣れて少し余裕が出てきたので、同人イベントに出ようと思い立ちました。そして初めて同人イベントで頒布したのが路線図を印刷したクリアファイルです。そして「あ、デザインと交通の結び付けもありなんだ」と思いました。それまではよくわからずに色々なところをフラフラとしていたような感じだったのですが、地理的なものを基盤とした情報を編集したものを作るという方向が定まったように思います。
鳴海:あ、それ自作なんですか!?てっきり東京メトロか東京都交通局が作ったものだと思っていました。すごい!
にし:ちなみに、東京都交通局に昨年夏に同じようなコンセプトの都営バス・地下鉄マップというのが出まして、それよりも私の作ったものの方が早いです。
鳴海:それはもう誇っていいと思います!ちなみにこのマップは2016年1月の制作となっていますが、同人活動を始めたのはこのころですか?
にし:そうですね、2015年の秋のコミティアですかね。
鳴海:ちなみに同人イベントに出ようと気持ちは前々から温めていたのですか?
にし:そうですね。作らなくてはいけないという使命感のようなものがありました。ちなみにフォントの同人誌にしなかったのは、フォントを買うのに費用的な課題がありまして……。そこで路線図を思いついたという経緯もあります。
鳴海:なるほど。バスにも興味を持たれているところが興味深いです。
にし:いえいえ、本当に最近からで。大学へ行くのにバスを使うのですが、それまではバスとは縁のない生活でした。大学に入って乗用車の運転免許をとってからバスの運転士さんの行動がわかるようになり、そこで面白いなと思うようになりました。そしていつの間にかバス停合宿に行くようになっていましたね。
鳴海:面白いですね。にしさんのTwitterを拝見していて、いつの間にかバス業界の「鉄人」が集まる会に参加されていて、びっくりした記憶があります。ここでも行動力が光りますね。
にし:バスといえば、バス折返場が好きです。バス折返場は拠点性が少しあって、コンビニや駐輪場があったりします。しかし、鉄道の秘境駅なら本や地図にも載っていますが、それより利用者が多いはずのバスターミナル・バス折返場の情報は出てきません。なので、実際どういう案内をしているかといった情報やその見せ方が気になります。それから、折返場、バスターミナルは旅情がありますね。特にバスタ新宿は本当に旅情があって、昔は上野駅だったものが今はバスタに移ったのではないかと思っています。集まっている人たちを見ていると、大きいスーツケースを持っている人が多く、遠くへ旅に出る人が集まっていると思わされます。そうそう、折返場は結構回ったので、これからサイトにアップしていこうかと思っています。
鳴海:ちなみに、バスタ以外でお気に入りのバスターミナルや折り返し場ってありますか?
にし:最近ですと、宮寺西(埼玉県入間市・西武バス)ですね。
鳴海:私も気になっている場所です。
にし:いいところですよ。雰囲気がとてもよくて。隣にフジパン系のコンビニ型店舗「フジファミリーショップ」があります。店内製造のクレープとパンがあるんです。そして近くは畑で、立派な馬頭観音や庚申塚があります。
鳴海:折返場を訪ねるのは、まちあるきをする感じでもありますね。まちではどのようなものに目が向きますか?
にし:そうですね。文字や看板といった道端の小物に目が行きますね。あとは面白そうな建物やお店、歴史にも目が行きますね。歴史ですと、今昔マップを見て、「このあたりは昔こんな感じだったのか」というのを味わって楽しみます。教科書的なことではなく、調べても出てこないようなことを知ると楽しいですね。
デザインと交通の交点―にしさんの作品を拝見しながら
鳴海:ここまではにしさんのバックボーンについてお話を伺ってきました。ここからは実際に作品を拝見させていただきたいと思います。
にし:pixivにアップしているものですが、まずはこちらから。
鳴海:にしさんの作品で初めて拝見したのはこれかもしれません。コンセプトが面白いなと思いました。まさに流行のデータビジュアライゼーションですよね。あまり交通では見かけないので、とても面白いと思いました。直観的に駅の規模をつかむことができ、意外とわからない時間距離の要素も載っています。住む場所を選ぶのにも参考にできますし、発見があって楽しいですね。
にし:次は路線図をいくつかお見せしたいと思います。はじめは名古屋から作りました。
にし:個人的には臨海部バスマップはがんばりましたね。路線図を好きで色々とみているうちにオーストラリア・ブリスベンのバス路線図を見つけました。それが右下へ線が伸びていく感じのバス路線図で、これは晴海通りに似ていないかと思い作りました。問題意識としてあるのは、事業者毎に路線図が別れていることですね。あとはJRと私鉄が別の線というのも違和感があります。もう国鉄民営化から30年経つというのに……。
鳴海:確かに、バスと鉄道、鉄道でも私鉄とJRと地下鉄を同じ線で描くというのがポイントですよね。手帳の後ろにそういう路線図がたまにありますけど見づらいことが多いです。見やすくかつわかりやすいのが大切ですよね。
にし:ほかにもちょっと変わり種もあります。
鳴海:カッコいいですね。
にし:ゲームが好きな友人がこの辺に住んでいて、ゲームのような世界観でこの地域を表現しやろうと思い立ち、作りました。雰囲気なので、実用的かは怪しいですけれど(笑)
鳴海:いえいえ、十分実用的じゃないですか。これ、ミソなのはバス路線が入っていることですよね。発見があります。そして見ていて楽しいです。私はこのマップはすごく好きですね。カッコいいなぁ~。話はそれますが、見ていて楽しいっていうのは地図ではかなり大切だと思います。
にし:見ていて楽しいのは大切ですよね。ひと昔前は路線図が絶対必要だったけれど、今は乗換検索があるから必要とされるシーンが少なくなったと思います。別に路線図がなくてもどうにかなります。そうすると地図を見ていて楽しいかどうかというのは非常に重要なポイントですよね。以前、地図のシンポジウムでも話題になっていました。
にし:あとはこんなものもあります。
鳴海:これも見ていて面白かったです。
にし:作っていて思ったのは、東京の鉄道本数における圧倒的ボリュームです。それから、湘南新宿ライン、上野東京ラインをどう処理するかが難しかったですね……。
鳴海:大阪では新快速の存在感がすごいですね。感覚でつかんでいることを図で表せるとすごいと思います。ところで、話は変わりますが、お気に入りの路線図はありますか?
にし:出来がいいなと思うのは、大阪市交通局の地図です。バスの地図は色の分け方がはっきりしています。色数を使っていなくて、デザインも非常に堅実です。そして情報も過不足なく載っています。なので、固いですがお手本的だと思います。地下鉄ですと、サインリニューアルで路線図もリニューアルして洗練されました。バスと地下鉄で方向性は違いますが、どちらも堅実でよくできているのではないでしょうか。
鳴海:いまサインという言葉も出ましたが、サインでもお気に入りというのはありますか?
にし:サインシステムですと、京王線がいいなぁと思います。メインの色が赤系の京王レッド、サブの色が青系の京王ブルーなんですよね。なので、路線図を見ると京王線が赤で井の頭線が青、上りが赤で下りが青になっています。階段もそうですね。さらにホームの声は上りが女性で下りが男性と統一されていて一貫性があると思います。
鳴海:私も京王線のサインシステムについては、すごく好きです。
にし:とりたてておしゃれではないのですが、サインシステムはわかりやすいですよね。
鳴海:そうですね。わかりやすさというのはやはり様々な場でポイントになってくると思いました。
見せ方へのチャレンジ
鳴海:素敵な作品を見せていただき、ありがとうございました。さて、にしさんはこれからも交通に関したことを中心に活動する予定でしょうか?
にし:お話をしてきたように興味が様々に映っているので、将来ずっと交通をやっているかは確信をもてません。でも、楽しいですから、当面はやり続けるでしょう。現在制作をしているのは、スマホといったデジタルデバイスで使うための路線図です。ただの路線図ではなく、縮尺によって路線図の見え方が変わることがポイントです。引いてみようとすると図形的な表現ですが、ズームするとより実際の地形図に近くなります。試作・プロトタイプとして、興味のあった横浜市電をひとまず作りました。
鳴海:おお!私は引き気味の地図が好きなのですが、縮尺によって見え方が変わるのはすごくいいと思います。縮尺によって用途も違うので。
にし:鉄道だと図形的な路線図がいいけれど、バスマップが実際の地形や地図に沿っていた方がいいと思うのです。なので、1枚に収めるのは難しいんですよね。主題がなくなってしまいます。そこで縮尺によって見え方を変えるという方法を思いつきました。ただ、これから現代の、実際に奔っている鉄道やバスの路線図を作ります。なので、バス路線を描かないといけなくて、大変だろうなと感じています。
鳴海:それはかなり大変そうです。
にし:すべてのバス路線を載せるのではなく、本数や乗車人員を元に編集して線の数を減らそうと思っています。横浜市電の路線図を作るにあたって、歴史を調べました。そこで面白かったのは、市電の系統がわかるとバスの系統も見えてくることでした。バスの路線は鉄道の路線のように目立つ設備がありません。ですが、歴史はそれなりにあります。例えば、滝頭という場所にバスの車庫がありますが、元々は市電の車庫でした。しかも100年近い歴史があります。それから、路面電車の運行系統をバスの運行系統が引き継いでいる場所もあります。
鳴海:なるほど。歴史も調べると奥が深いですね。路線図の完成を楽しみにしています!本日はありがとうございました。
にし:ありがとうございました。
今回はデザインと交通の交点から、まちと歴史の話まで幅広く伺うことができました。これはひとえに、にしさんのフィールドの広さゆえかなぁと思いました。こうした素晴らしい発想とプロダクトをお持ちの方に今後も活躍してほしいと願うばかりです。
さて、matinoteでは、今後もこうしたインタビューを企画しております。メンバーに会って話してみたい、この人と話してほしいなどございましたら、お気軽にSNSやお問い合わせフォームからどうぞ。お待ちしております。
【今回利用した喫茶店】
akaricafe(立川)
JR中央線・青梅線・南武線と多摩都市モノレールが集まる立川駅から北へ5分ほど歩いたところにある、オープンテラスが特徴的なカフェです。
多摩都市モノレールがすぐ近くを通り、その下を人々が行きかうゆとりある空間を見ながら、ゆっくりと歓談することができます。電源とWi-Fiがあるところもポイントです。
以前のインタビュー記事はこちら
「旅行ではなく、街の住民になっているような感覚で歩きたい」-インタビュー:まちあるきと地理の境界線(話し手:なまこむさん)
トーキョー・セントラル、ディープ・ワールド-第3回:現役中央区民が語る「地元としての」中央区(話し手:トントリさん)
【インタビュー】「中学の頃は地図帳をずっと眺めていました」ー地図とまちと風景の接点(前編)(話し手:アリス川さん)
【インタビュー】「風景、まちと旅行の密度を上げていきたい」―地図とまちと風景の接点(後編)(話し手:アリス川さん)
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