【交通】「赤電」の朝を中心にいまを見る-浜松と遠鉄:第2回

 他地域から浜松のまちを訪れると、駅前には遠鉄百貨店があり、遠鉄バスや遠鉄タクシーが走り回っています。まさに遠州鉄道は「浜松の顔」と思えるでしょう。駅だけではなく、浜松市内において「遠鉄」は各所に存在感があります。鉄道・バスともに高頻度の運行を行っていますし、「遠鉄百貨店」や「遠鉄ストア」といった小売業や「舘山寺温泉」の観光開発も手がけているのです。

しかしながら、遠州平野に位置し、自動車メーカースズキのお膝元の浜松で交通手段として利用されているのは専ら自動車です。交通分担率を見てみると鉄道・バスは2.2%ずつ、自動車は66.8%となっており、他の政令指定都市と比べても自動車の利用率は高めです。

それでも、鉄道とバスはともに便利な交通機関として機能しています。
今回は「鉄道線」を中心に遠鉄の姿をご紹介します。

 
朝の新浜松駅にて。IC専用改札と有人改札で次々に利用者を捌いていく。(撮影:夕霧もや 2016年)

朝の新浜松駅にて。IC専用改札と有人改札で次々に利用者を捌いていきます。(撮影:夕霧もや 2016年)

 

遠州鉄道について

まず、遠州鉄道線の歴史と概要を簡単に見てみましょう。

鉄道線は新浜松~西鹿島間の17.8Kmを結んでいます。開業したのは1909年、「大日本軌道 浜松支社」の「鹿島線」として建設されました。この「大日本軌道」は、甲州財閥の「鉄道王」として知られた雨宮敬二郎氏の会社で、浜松を含めて全国7カ所の支社で営業を行っていたようです。
その後、浜松支社は2度の社名変更を行い、新規路線の建設を行いながら営業を続けていきます。ただし、乗合バスが発達してきたことから、建設された5路線のうち3路線は戦前に廃止されてしまっています。

転機となったのは1943年です。戦時下体制の元でバス会社やタクシー会社5社と合併し、現在に直結する「遠州鉄道株式会社」が設立されました。浜松の交通を「遠鉄」一社が取りまとめているルーツは、このあたりにありそうです。
戦後、同社は浜松市の輸送を一手に担い、着々と発達を続けていきます。戦後も営業を続けていた鉄道線、「奥山線」こそ1964年に廃止されたものの、残った現在の鉄道線・バス路線は着々と利便性を向上させ、現在に至っています。

現在の路線図を見てみましょう。

 
遠鉄電車・バス路線図。右上に伸びるのが鉄道線です。(日中3本/時以上の路線のみ抜粋、遠鉄電車・バスの公式路線図・時刻表とOpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

遠鉄電車・バス路線図。右上に伸びるのが鉄道線です。(日中3本/時以上の路線を抜粋、本数が少ない区間は一部のみ掲載。遠鉄電車・バスの公式路線図・時刻表とOpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

 
(2017/5/21追記:アップロード当初、左側へ伸びる遠鉄バス「舘山寺線」の記載漏れがございました。読者の方のご指摘を受け、地図を修正いたしました。ご指摘頂いたお礼と、間違った情報を発信していたお詫びを申し上げます。また、一部路線の末端区間に関して記述を追加しています。)

鉄道線は浜松市を南北に貫いて走っています。車体は昔から赤を基調としており、通称「赤電」と呼ばれています。

赤電の朝を見る

鉄道線は、ほぼ終日に渡って12分ヘッドという高頻度での運転で知られています。どの時間帯も利便性は高いのですが、鉄道が最も活躍するのは、やはり朝ラッシュの時間帯。実際に乗車して、その様子を見てみました。

 
朝の遠鉄電車は2両編成を2つ繋いだ4両編成で、輸送力を確保。 (撮影:夕霧もや 2016年)

朝の遠鉄電車は2両編成を2つ繋いだ4両編成で、輸送力を確保。 (撮影:夕霧もや 2016年)

 

朝7時前、始発駅である西鹿島駅に降り立ちます。天竜浜名湖線・遠鉄バス各線との結節点になっており、拠点性がある駅です。

さっそく、遠鉄電車が1本到着。すると多くの学生が改札を通り抜け、足早にバス乗り場に向かいました。二俣町方面への動きがあるようです。
しばらくすると二俣町方面からのバスが到着し、今度は一気に電車へと乗り換えていきます。こちらも学生が多めですが、一部に通勤客らしき姿も見られます。バスは鉄道のフィーダーとしてうまく機能しているようです。加えて、宮口方面からやって来た天竜浜名湖線列車からも接続を受けました。

その結果、7時12分発の新浜松行は西鹿島の時点で4両編成の座席が埋まる程度の混雑です。自分もこの電車に乗ることにしました。

 
4両編成だと西鹿島駅ではホームの長さが足りないため、一部のドアだけで客扱いを行います (撮影:夕霧もや 2016年)

4両編成だと西鹿島駅ではホームの長さが足りないため、一部のドアだけで客扱いを行います (撮影:夕霧もや 2016年)

 

進んでいくと、各駅で満遍なく乗車があります。中でも動きがあったのは遠州小林、学生が一気に下車しました。県立浜名高校への通学需要のようです。西鹿島でも学生の利用者が多かったことを考えると、郊外地区における厚い通学利用は重要なポイントになっていそうです。


しばらく乗ったあと、拠点駅の一つである浜北で降りてみました。駅前にある駐輪場を見てみると、ほぼ自転車で埋まっています。また、通勤・通学の利用者がつぎつぎとやって来て、あっという間に狭いホームは人でいっぱいになりました。朝ラッシュにギリギリ対応できるラインでインフラを整備しているのではないかと感じます。

少々余談ながら、新年度を迎えた遠鉄電車では、朝夕の時間帯を中心に1~2分程度の遅延が発生してしまっているそうです。多くの区間が単線であり、綺麗なパターンダイヤを組んでいるために朝・夕も駅での停車時間はあまり変わりません。また先述した通り、設備は利用者数に対して容量ギリギリとの印象を持ちました。そのため、ピークに少し不慣れな利用者が増えると遅れてしまうのもやむを得ないのかもしれません。東京や大阪での遅延問題と共通する点がありそうです。

 
浜北駅にて。多くの利用者が電車を待っています (撮影:夕霧もや 2016年)

浜北駅にて。手狭なホームでは、多くの利用者が電車を待っています (撮影:夕霧もや 2016年)

 

再び電車に乗って新浜松を目指します。浜北駅7時35分発の新浜松行電車は席が埋まっており、助信までの各駅でもどんどん人が乗ってきます。特徴的なのは、浜松中心街まで乗り通さない、短距離での利用が少なくないことです。座っていた乗客が途中駅で降りても、その後に席が埋まらない光景を何箇所かで見かけました。

遠州鉄道の最混雑区間は助信から八幡までです。とはいえ混雑率は120%程度と余裕がある状況でした。そして、八幡からは降車が中心となります。八幡から終点の新浜松まで、浜松中心街側の各駅は駅ごとに利用者の層がはっきりと分かれているのが特徴的です。

まず、八幡にはヤマハの本社・工場があり、通勤客が下車していきます。
次の遠州病院では学生が一斉に降りていきます。一見、周りに高校は見当たりませんがどこへ……?実は、バスとの乗り継ぎ利用ができるようです。次回のバス編で詳しくご紹介します。また、車窓からは自転車通学の様子も見られました。どうやら遠州病院駅に自転車を置いているようです。

さらに、第一通りで周囲への通勤客が降りていきます。第一通りでは、「降車人員」が「乗車人員」よりも2割程度多くなっています。朝は職場に近い第一通りで降り、帰りは始発駅であり商業施設に近い新浜松から乗る、という動きが目に浮かびます。

そして、終点の新浜松に到着しました。一斉に動く人の多さがターミナル駅を感じさせます。新浜松までの利用者は、最も混む助信-八幡間の6-7割程度といったところです。

 
新浜松駅では4両ぶんの乗客が一斉に改札へ向かいます (撮影:夕霧もや 2016年)

新浜松駅では、4両ぶんの乗客が一斉に改札へ向かいます。 (撮影:夕霧もや 2016年)

 

地方都市における朝ラッシュの動きは郊外から都心へ向かう単純な形態と考えがちですが、遠鉄電車の流動はなかなかに複雑で奥深いものでした。この点は「政令指定都市」を走る鉄道らしい一面と言えるでしょう。

さて、このように旺盛に利用されている遠鉄ですが、その理由はどこにあるのでしょうか?
運行頻度、沿線の人口、地形など様々な理由が考えられますが、今回印象に残ったのは「連携」です。西鹿島、遠州病院でのバスとの連携はスマートでした。

そして、「連携」は、遠鉄を考える上での重要なキーワードと言えそうです。

タクシーとの「ジャストタイム接続!?」

鉄道とバスの連携は、比較的よく話題に上がります。しかし、タクシーとの連携はあまり聞き覚えがありません。

遠鉄では、電車に乗る前に電話でタクシーを呼んでおくと、到着時間に合わせて駅にタクシーを付けてくれるサービスを行っています。なんと、配車料は無料です。駅から降りた後の足(ラストワンマイル)に困りがちな地方鉄道の利便性向上策として面白い試みです。駅ではパークアンドライド用の駐車場、駐輪場、送迎スペースの整備を併せて進めており、マイカーや自転車との連携にも気を払っています。
マイカーや自転車への配慮は通勤・通学利用の促進として、無視できない重みを持っていると感じられました。

 
さぎの宮駅前。送迎スペースと駐輪場が整備され、「サイクル&ライド」の看板も掲げられています。(撮影:夕霧もや 2016年)

さぎの宮駅前。送迎スペースと駐輪場が整備され、「サイクル&ライド」の看板も掲げられています。(撮影:夕霧もや 2016年)

 

鉄道だけでなく、その前後にも気を配るのが「遠鉄らしさ」なのではないでしょうか。

おわりに

遠州鉄道の鉄道線を取り上げ、朝ラッシュの様子と、他の乗り物との「連携」について見てみました。
以前の高松・ことでんでも同様の構成で紹介していますが、この二要素はそれだけ重要なのではないかと個人的には考えます。地方鉄道について考える際は、ぜひ着目してみてください。

次回は、浜松中を駆け巡る「遠鉄バス」を詳しく取り上げます。どうぞお楽しみに。

「浜松と遠鉄」特集記事一覧

【まちづくり】場末からまちの顔へ変わった浜松駅-浜松と遠鉄:第1回 
【交通】「赤電」の朝を中心にいまを見る-浜松と遠鉄:第2回 (当記事)
【交通】「浜名湖をひとっ飛び」!?遠鉄バスの細心・大胆なネットワーク-浜松と遠鉄:第3回
【まちづくり】「街と生き」てきた遠鉄グループの姿浜松と遠鉄:第4回

本記事の参考資料

遠州鉄道グループ 公式ホームページ
http://www.entetsu.co.jp/
遠鉄電車 公式ホームページ
http://www.entetsu.co.jp/tetsudou/
遠鉄電車 公式ホームページ「新年度の多客による列車遅延について」http://akaden.lekumo.biz/information/2017/04/post-8b15.html?_ga=2.63009068.2031810602.1495257340-150826553.1494159951
遠鉄バス 公式ホームページ
http://bus.entetsu.co.jp/index.html
遠鉄コミュニケーションズ公式ホームページ
http://www.entetsu.co.jp/ad/sitemap/
遠州鉄道株式会社「迎車料金無料で遠鉄電車からタクシーへラクラク乗り換え!」
http://www.entetsu.co.jp/release/20160907_entetsu.pdf
浜松市ホームページ「公共交通の活性化と再生に向けて」http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kotsu/traffic/kokyo_sesaku/kasseika/index.html
静岡県統計年鑑2014
http://toukei.pref.shizuoka.jp/toukeikikakuhan/page/nenkan/2014_h26.html#a10
ほか新聞記事など参照。Webは2017年5月20日閲覧。
[変更履歴] 2017/05/21 路線図を訂正、同箇所に記述を追加。

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夕霧 もや

夕霧 もや

ラッシュアワーの秩序ある混沌を観察する人。 旅で追いかけるのは「まち」の「一瞬」。通勤・通学で混み合う交通機関や、買い物客で賑わう商業施設。その「まち」でどのように「機能」しているのか観察するのが楽しいです。 あと、ご当地の甘いものに目がありません。