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「旅行ではなく、街の住民になっているような感覚で歩きたい」-インタビュー:まちあるきと地理の境界線

 matinoteのサイトオープンにあたって、まずは自分の身の回りの人の考え方を知りたい!ということになり、今回はインタビュー企画をお届けします。
 今回は、大学の後輩にあたる「なまこむ」(Twitter : @Nama_coM)さんに話を伺うことにしました。テーマは「まちあるき」と「地理」。まさに当サイトにはぴったりのテーマです。たっぷりと語り合ううちに地理を学ぶ大学生の問題意識が随所ににじみ出るものとなりました。

話し手
なまこむ(@Nama_coM
1995年生まれ。東京都八王子市出身。地理に関する造詣のほか音楽、文芸、喫茶店などに関する知識も豊富。構想を形にする行動力がすごい。大学サークル「東方明治楼」元代表。

聞き手
かぜみな(@kazemina_)
1993年生まれ。東京都八王子市出身。商業施設や書店に関心が強い。当サイトを運営する団体「ダイロクマチノテ」代表。

「まちあるき」ではない旅のカタチ

なまこむ(以下:な):僕はもともと立地論がやりたくて、大学受験の時は経営学部とか受けていました。それがいろいろあって、現在地理学を専攻しています。
大学入ったころは、ちょっと文学的な、いわゆる非実学といったことを軽んじていました。お前らと違って、実際にあるものに触れているのだから、地理は実学なんだぞ!って(笑)
そんなわけで、実は2年生の頃まで本を読むことが嫌いでした。でも、3年に入ってキャンパスが移り、近くに神保町の古書店街があって、そこから本を読みだしました。そこで思ったのですが、街が人を変えるようなことって結構あると思います。人が好みによって街を選ぶという要素もあるとは思うのですが。

かぜみな(以下:か):なるほど。

:例えば渋谷の開発とかもそうで、スペイン坂はおしゃれな人が歩く街というイメージを打ち出していますよね。例えば70年代の公園通りのキャッチコピーには『すれ違う人が美しい』というものがあったんです。そういうのって逆説的におしゃれじゃない人を排除するということになります。渋谷の場合は資本が働きかけているというのはありますが、そうやって街と文化と人が相互に影響を及ぼしている。これが神保町と僕の場合だと、古本屋さんや喫茶店が身近にあるという環境を享受できるようになって、古本屋を利用するようになりました。
ほかにも、少し前に木曽平沢という漆器の街へ行く機会がありました。そこで工房を見つけて、飛び込みで見学させてもらえないか交渉しました。

:なまこむさんは、そういった行動力がすごいですよね。僕にはまねできない。

:交渉の結果、見せてもらえることになって、中を見ながら街のことも話したりしました。普通だったらそういった工房も、「あ、なんかあるなー」って通り過ぎて終わりです。でも地元の人といろいろと話すことで街に対する知見が深まりますよね。するともうこれは「まちあるき」を超えたものになります。
このように旅行ではなく、街の住民になっているような感覚で歩きたいと思っています。

:僕もここしばらくは旅行のテーマを「日本全国を自分の地元にする」というものにしています。「その土地の人になりたい!と思って街を見ていますから、なまこむさんと似たようなものがありますね。ただ僕の場合は人見知りをするので、まちにたいして「よそもの」として触れてしまうことが多いです。その代りに「まち」に寄せていくために、敢えてどこにでもありそうな食堂に入ったり、朝ラッシュの電車やバスにもまれたりしています。なまこむさんに比べるとドライな関わり方ですが、「地元」の人しか見えない景色が見たいと思っています。

:観光地に行ってもいいのですが、地元の人はいかないですよね。例えば八王子市民は高尾山にあんまり行かないじゃないですか。

:確かに (笑)(※2人とも八王子市出身)

:観光客のあり方って、街に対して距離を置いていますよね。あくまでも街に対して他者であり続けています。しかし、そうすると得られるものが少なくて、僕から見るともったいないような気がします。

:その辺に関しては僕も思うところがありますね。

:さっきの木曽平沢の後には奈良井(注:中山道の宿場町)に行って、カフェに寄りました。いわゆる有名なコーヒーショップではないし、そこで出しているコーヒーもはっきり言ってしまうと大したものではなかったと思うんです。でも出会いがあったからすっごくおいしく感じました。

:いや、それはおいしいコーヒーだったのかも(笑)

 
木曽平沢の趣ある街並み

木曽平沢の趣ある街並み。話を聞いて筆者も行きたくなりました(撮影:なまこむ)

 

:そこでは店主の方が「メールの使い方がよくわからないんだよね」とおっしゃっていて、一緒にいた友人がメールの使い方を教えました。すると店主がコーヒーを1杯サービスしてくれて。あの旅行は人情に触れる旅でしたね。

:そういう「人情」みたいなものは、結構共感を呼びそうな気がします。

:人情旅というのは確かに女の子が好きそうですよね。

「まちあるき」は女の子に人気なのに、「地理」には女の子が少ない

:そういえば、先日なまこむさんは「街歩きは女の子に人気なのに、地理って女の子が少ないのはなぜだろう?」と疑問を呈していましたね。個人的に面白い疑問だと思います。

:あぁ……ぼくが言ったやつでしたね。本当は女の子に聞いた方がいいのですが、でも地理学の女の子に聞いても仕方ないですね(笑)

:確かに(笑)

:例えば、地理学に関わっている人の中にも、実は地理畑出身じゃない人が結構いる気がします。そういう人はあまり地理に対してマイナスイメージがないから来ている。だから実はあんまり悪いイメージはないのかもしれないですが、現実は男ばかりですね。先日、他大の地理の女の子と話したら、「女の子って地図が読めないっていうイメージがあるよね」という話が出ました。

:でもそれは実はイメージでしかなくて、実際は女の子が地理を特別苦手にしているという感じはないのですよね。

:さらに言えば、まちあるきサークルは女の子ばかりですよね。あれを見ると僕は腹が立つんです。ふざけんなよって思う(笑)

:(笑)

:おそらく、「まちあるき」はおしゃれなんです。一方で地理学はおしゃれじゃない。まちあるきサークルにいる女の子が求めているものって、下町を歩いて途中で食べ歩きをするようなものです。そして好きなところはどこかと聞くと、浅草や上野桜木です。こういったところは古民家リノベーションが盛んだったり、喫茶店がたくさんあったりする。

:でもまちに対する着眼点は、僕ら地理の人たちも変わらないですよね。僕たちだって決して浅草が嫌いなわけじゃない。食べ歩きも嫌いなわけじゃない。だから、体系的な情報や知識にアクセスできるような環境を整えれば地理につながりそうな気がする。

:結局のところ、街並みを表面だけ見て受け止めるところで止まっているんですよね。目の前の景観がなぜ形成されているか、建物にしてもなぜここにあるのかということに興味がないんですよね、きっと。

:いや、興味がないというよりもさっきなまこむさんが言ったようなことに対して思考がアクセスする回路がないんじゃないかなという気がします。アクセスする回路を提供してみたら実は『知りたい』ってなるのではないかと思っていて、個人的に気になっています。

:もしかすると、中学・高校時代の地理教育のやり方も課題なのかもしれませんね。

:確かに、中学・高校の地理ってドライなんですよね。高校レベルまでの教育を受けてきた普通の人たちにとって、地理というのは「首都を覚え」、「じゃがいもの産地を覚える」程度のものだと思います。「作業ゲー」になっちゃう。

 
地理と女子の関係をアツく語るなまこむ氏

地理と女子の関係をアツく語るなまこむ氏(本人の希望でモノクロになっています)(撮影:かぜみな・2016年)

 

:そういう面はありますよね。僕の高校でも地理の授業はドライでした(笑)。僕は先生の授業聞かないで、東大の地理の論述をずっとやっていました。その方が地理のストーリーが掴みやすいので。

:それはすごい。さて、ドライっていうのはどういうことか考えると、要はストーリーが無いってことなのだと思います。じゃがいもの産地を覚えるにしても、じゃあなんで北海道の生産量が1位で2位になんで突然長崎県が入ってくるのか。これをストーリーにして話してくれる先生がいない。さらに言えば何故その順位を覚えないといけないのか。ここまできちんと話せる先生はほとんどいないと思う。これは現場の事情もあると思うのですが、必要以上に地理がつまらなくなってしまっているという印象があります。そうすると、大学で学問としての名前を変えるという手も考えられます。

:同志社大学には「京都学」という専攻がありますね。僕がもし京都に住んでいたら、入りたかったです。スポット性もあるし、京都学って言うと地理に限らず歴史にも触れそうです。そう考えると「地理」の「敷居の高さ」を意識させられますね。

敷居の高さを感じさせないメディアを作るには

:話を戻しますが、「地理」の「敷居の高さ」を意識したときに、先ほどの『「人情」が共感を呼びそう』という話がつながってくるのではないかと思いました。そういったものを伝えるのは草の根のメディアの役割かと思います。メジャーな媒体、例えば「散歩の達人」とか、「じゃらん」というのはどうも、バックボーンが大きすぎるというか、嘘っぽくなってしまうのではないかという違和感のようなものがあるんですよ。

:最終的にはやっぱりストーリーに落とすということに回帰していきそうな気がします。「孤独のグルメ」とか「ワカコ酒」といった人気の漫画もストーリーが魅力を高めている感じがします。現代社会は「冷凍都市」だなんて言われたりもしますけど、やっぱり人々はつながりを求めているという実感はあります。キズナ的なメディアというか、人情というか、そういうメディアはいいですよね。

:そういう視点や考え方を大切にしていきたいなと、うちのサイトでも思っているところです。

:matinoteってネットの媒体ですよね。否定する気は全くないのですが、僕としては紙の媒体を重視したいと思っています。最近、「文学とは何か」という本を読んでいるのですが、内容を要約すると、しゃべる言葉ってやっぱり生なんですよね。Twitterとかでも思うのはモノを書くと、自分の持っている感情を言語化するので100にはならない。限界があると思うんです。

:なるほど。僕のなかでも、文章は発信の手段でありつつも、なんとなくの違和感があります。リアルな語りを通じてコンテンツを発信していくというようなことも考えています。

:人を凄いと思わせるしくみって、いろんな視点を忘れないままでいつつ、自分の専門を掘り下げていく姿勢にあると思うんです。その辺がかぜみなさんやmatinoteの課題のように見えます。

おすすめスポットと今後期待すること

:さてここまでいろいろ話してきましたが、最後に2つほど質問をさせてください。1つ目ですが、最近行ってよかったあるいは行きたいと思った場所ってありますか?

:今は新宿区の四谷辺りにある荒木町が気になっています。景観的な興味と、あとやっぱり地形ですね。ほかには八王子市では田町というエリアが気になります。ここは遊郭の跡で、妙に道が広いのですが、遊郭建築の横で古民家カフェが開かれているんです。1980年代では負の遺産とされていたものが今ではポップコンテンツになっている。これは面白いです。

:荒木町も八王子市の田町も気になります。八王子市内だと多摩唯一の芸者さんがいる黒塀通りというのもあります。市としては黒塀通りを観光地化したいようだけど、個人的にはちょっとあそこはまだ怖い場所って感じがします。

 
八王子市田町の古民家カフェ

八王子市田町の古民家カフェ。中が気になりましたが混んでいて断念(撮影:かぜみな・2016年)

 

:黒塀通りの飲み屋街はまだ生きていますね。田町はもう完全に住宅地になっている感じです。

:なまこむさんのおすすめスポットって割と近場が多い印象ですが、あまり遠出はしないのですか?

:あんまり観光旅行はしません。どちらかというと「聖地巡礼」(注:アニメの舞台探訪のこと)の方が多い気がします。

:では最後に、こういう人にインタビューしてほしいというものを教えてください。

:地理以外のことにも視野を向けた方がいいのかもしれません。どうしたら地理に女の子が来るのかという話をしましたが、逆に地理に興味のない女の子に聞いた方が手っ取り早いですよね。あとは教授にインタビューというのもいいかもしれません。僕は全然関係ない領域で活躍している先生方をみて、「この先生とこの先生、会わせてみたらめっちゃ話盛り上がるだろうな」と思ったりもします。そういうのを仕掛けるのも楽しそうですね。

:わたしにはハードルの高そうな提案ばかりですが……頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。

【今回利用した喫茶店】

ミロンガ・ヌオーバ(神保町)

 
ミロンガ・ヌオーバ(神保町)

(撮影:かぜみな・2016年)

 

 本の街神保町を代表する喫茶店。タンゴが流れる店内は、少しだけ暗くてレトロな雰囲気。小さいお店だが店員さんとの適度な距離感で、一人になれる現代的なさじ加減も持ったバランスの良さが魅力的。入口の敷居は高いが、勇気を出して入ってみれば、快適で趣のある空間が待っています。ミロンガブレンドがおすすめ。

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渦森 うずめ

都市という現実の中に漏れ出す夢や理想を商業空間に見出して遊んでいます。逆にコンテンツという夢や理想から現実を救い上げるのもすき。つまりは理想と現実を渡り歩く放浪者(?)。消えそうなファーストフードチェーン「サンテオレ」を勝手に応援中。