「運転代行プール」? 運転代行利用促進のためのチャレンジ・佐沼(宮城県登米市)

 運転代行利用促進のために宮城県登米市佐沼地域で行われた「運転代行プール」。画期的な取組みでしたが、思わぬ課題もあり、その後の継続的な取組みには至りませんでした。その経緯と要因から運転代行業について考えます。

wikipediaに導かれて知った「運転代行プール」の取組み

 冒頭でこんなことを書くのもどうかといますが、私はしばしば、調べようと思っている町の概要をつかむためにWikipediaを見ることがあります。ざっくりと基本情報を掴み、面白いポイントや情報を探すためです。今回の「運転代行プール」も、旅行前に登米市について調べていて見つけました。
 「登米市の佐沼地区は飲食店の多い地域である。(中略)自家用車に交通手段を依存している登米市では、(中略)運転代行が夜の市民の足として用いられている。登米市の運転代行業者は合同で「運転代行プール」を佐沼地区市街地に設置しており(後略)。」
 「運転代行プール」という文字列に目を惹かれたことは言うまでもありません。「タクシープール」なら駅前によくある、タクシーが待機している場所です。また、関西では駐車場を「モータープール」といいます。しかし、「運転代行プール」とはなんでしょうか。想像もつきません。そこで、「運転代行プール」を探してみることにしました。

宮城県登米市佐沼地区について

 登米市は平成の大合併で9町が合併して生まれた市です。その中でも佐沼地区は地域の中心となっています。自治体名は「迫町」と称していましたが、「佐沼」の方が一般的に定着しており、国道の看板でも「佐沼」と書いているところも多くありました。

 
宮城県の地図(一部)。登米市と仙台市は高速バスで結ばれている。openstreetmapを基に作成。

宮城県の地図(一部)。登米市と仙台市は高速バスで結ばれています (OpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

 

 さて、本筋からは外れますが、いったん佐沼地区について歴史からひも解いてみましょう。佐沼地区は室町期に佐沼城(鹿ヶ城)が置かれ、地方の豪族が領土を奪い合う地になりました。乱世も落ち着き、伊達家の治世になった後は登米地域一帯の中心になりました。明治期には一時、旧登米町が地域の行政の中心となっていましたが、その後再び佐沼が地域の中心になり、現在に至っています。
 地域の交通を見ると、大正期に米の輸送を目的とした鉄道が開業しています。しかし、1968年には全線廃止となってしまいます。路線バスもモータリゼーションで縮小し、現在はコミュニティバスを残すのみとなっています。
 ここまでで分かる通り、佐沼は地域の中心ですが、夜の交通を運転代行に頼らざるをえないほど自家用車中心の文化となっているのです。すると、本当に「運転代行プール」があるかもしれない、そう思いながら現地へと向かいました。

佐沼地区の歓楽街、中江四丁目へ

 佐沼地区の歓楽街は登米市役所の南、中江4丁目周辺に広がっていました。約350mの通りにおよそ30軒の飲食店が軒を連ねています。現在登米市は8万人とはいえども、もともとは2万人の町(旧迫町)の中心です。このような小規模な街にこれだけの歓楽街が成立していることに驚嘆しました。

 
佐沼地区の拡大図。Openstreetmapを基に作成。

佐沼地区の拡大図 (OpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

 

中江4丁目のスナック街。この通りに集中するが、30軒以上はある(撮影:鳴海行人・2016)

 

無断駐車に対して強硬な姿勢を見せる各店舗の駐車場(撮影:鳴海行人・2016)

 

 しかし、あたりを見渡しても「運転代行プール」らしきものは見当たりません。そこで同行者が調べたところ、佐沼地区の「取組み」を参考にした沖縄県での取組みを見つけました。ここである仮説が友人との間に立ちます。
 「もしかすると、「運転代行プール」というのは、手配の電話が一本化され、各店舗の駐車場に車が待機している形式なのではないか。」
 なるほど、それなら専用スペースも必要ありません。疑問が残りつつも、旅程が押していたこともあり、この日はここで撤収しました。
 旅行から帰ってきても、やはり「運転代行プール」が気になります。佐沼地区には運転代行業者が多く、旧迫町内に8社、周辺地区となる中田・南方・米山地区を入れると13社を数えます。これだけの業者が協力して電話を一本化したならどこかに番号があるはずなのですが、ついに仮説を裏付ける「一本化された電話」はありませんでした。

 
登米市内各地区の位置関係。openstreetmapを基に作成。

登米市内各地区の位置関係 (OpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

試験的なキャンペーンの中で行われた「運転代行プール」

 調べれば調べるほど謎に包まれた「運転代行プール」の真相を知るべく、私は登米市商工観光課に質問のメールを送りました。
 翌日、登米市商工観光課から電話がありました。どうやら、私のメールを受けて市の方で調査をしていただいたようです。その結果、運転代行プールに関する事実関係を知ることができました。
 事実の前に前提の話をしましょう。運転代行はその業務の特性上、特定の時間に需要が集中します。それゆえに客を待たせてしまうことがあり、飲酒運転につながるという事情がありました。そして、2001年から2007年にかけて飲酒運転の厳罰化が行われています。
 この話を基に登米市の話に戻ります。登米市商工会では度重なる飲酒運転の厳罰化で、歓楽街から客足が遠のくことを不安視しました。そこで、歓楽街を活性化させるため、登米中央商工会など民間団体が音頭をとって飲酒運転撲滅と歓楽街振興を主眼にすえた「飲んで乗っちゃイヤ!キャンペーン」を行いました。(2006年8月~9月)。キャンペーン内容は、「乗っちゃイヤ!券」として運転代行利用券200円分を配布し、運転代行利用後に残る半券をキャンペーン利用の抽選券とするものでした。
このとき参加した運転代行業者は7社、参加飲食店は50店強に上っています。
この際、運転代行の需要増大が見込まれました。そのため、登米市役所の駐車場(駐車場が広く、一般駐車場として利用されることがある)を運転代行業者共同で車置き場として利用しました(※注)。このことで、実質として運転代行モータープール制を行ったような形となりました。キャンペーンは好調だったそうです。
 しかし、現在はこの取り組みは行われていません。2006年だけの取り組みにとどまってしまったのです。その大きな理由は、運転代行業者の料金設定にありました。
 もともと、運転代行業者同士は競争関係にあるため、料金は一律ではありません。しかし、プール制を導入すると呼んだタイミング次第で会社が変わってしまいます。このことから利用者にとっては不公平感が生まれました。
 そこで、継続的な取組みに結びつけようと料金を一律にして利用促進を図ろうという動きも起きました。
しかし、ここで障壁となったのが法律です。宮城県から独占禁止法に抵触する可能性があると「待った」の声がかかりました。このことで、運転代行利用促進の動きは完全に収まってしまったといいます。
 せっかくのユニークな試みがこうして下火になってしまったのは残念ですが、沖縄県でこの取り組みが注目され、うるま市や石垣島などで佐沼地区を参考にした取組みが行われたようです。

運転代行業の新たな可能性を考えるべきでは

 よく、「公共交通を利用しましょう」と言われます。そして、飲酒運転は当然やっていけないものであるため、公共交通と歓楽街というのは親和性が高いように思われます。一方で、地方部ではバス・鉄道が十分なサービスレベルに達しておらず、飲酒後の帰宅には主に運転代行が用いられます。運転代行も各社の供給力に限界があるので、各社協力して利便性を向上させて運転代行の満足度向上と歓楽街の活性化を同時に行おうというのが佐沼の取り組みでした。これは試験的なもので終わってしまいましたが、大変有意義なものであったと思います。
 ナイトスポットは「まち」を構成する重要な要素です。そのナイトスポットを活性化するため、運転代行の活用法や利便性の向上について大いに議論されてもよいだろうと思うのです。そして、新たな交通サービスやビジネスのチャンスも潜んでいるのではないかと期待しています。

 

青森県のナイトスポット(撮影:鳴海行人・2016)

 

(注):登米市はこの駐車場利用に関しては関知しておらず、私の問い合わせによる調査によって「運転代行プール」の話について詳細を知ったようです。

≪謝辞≫
私の突然の問い合わせに対応し、お忙しい中調査していただきました登米市商工観光課をはじめ、同市内各関係企業・機関そして協力者の皆さまに感謝申し上げます。

[参考資料]
・「登米市」登米市. http://www.city.tome.miyagi.jp/ (2016年7月9日最終閲覧)
・「登米市」wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BB%E7%B1%B3%E5%B8%82 (2016年7月9日最終閲覧)
・登米中央商工会(2006)「飲んで乗っちゃイヤ!キャンペーン」登米中央商工会. http://www.tome.or.jp/nocha-iya/pr.html(2016年7月9日最終閲覧)
・宮城県警察(2015)「認定自動車運転代行業者一覧表」宮城県警察. http://www.police.pref.miyagi.jp/hp/kikaku/daikou/daikou.pdf(2016年7月9日最終閲覧)
・ pyoco3(2015)「宮城バス仙北鉄道線を訪ねて」減速進行. http://pyoco3.c.ooco.jp/touhoku/senboku/senboku.html(2016年7月9日最終閲覧)
・katsu(2013)「仙北鉄道 廃線前の活気」地方私鉄1960年代の回想. http://umemado.blogspot.jp/2013/04/blog-post.html(2016年7月9日最終閲覧)
・有限会社仙北シロアリ「登米市 旧迫町 佐沼城址(鹿ヶ城公園)」仙北地域の紹介. http://www.senpoku.com/kankou/hasama1.htm (2016年7月9日最終閲覧)
・琉球新報(2007)「運転代行、モータープール制開始」琉球新報. http://ryukyushimpo.jp/photo/prentry-30098.html(2016年7月9日最終閲覧)
・雲助(2007)「代行プール」雲助の運転代行日記. http://ameblo.jp/missile776d/entry-10034441202.html(2016年7月9日最終閲覧)

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鳴海 行人
matinote仕掛人・ライター・マネージャー(編集長) 90年生まれのまち探訪家。 地域を俯瞰的に見つつ、歴史を掘り下げて現在の姿への系譜を探りながら、まちを観察をしています。地誌・地方都市・総合交通体系・ロードサイド・観光・空間デザインなど様々な視点を駆使し、まちを読み解くことがひとつの楽しみです。