八王子の生い立ちと足跡を追う-第4回:八王子にある2つの「むらうち」

 前回までは八王子の市街地について長々と書き連ねてきました。今回は最後に、八王子を代表する2つの特徴的な企業を紹介します。
 不思議なことにこの2つの企業、どちらも「むらうち 」という読み方がついています。遠い親類のようですが、直接の関係はありません。しかし2社とも、 社会的にかなりのインパクトを与えてきました。

 

2つの「むらうち」の位置関係を地図に表しました。どちらも中心市街地からは離れており、八王子駅のアクセスはバスが最適です (OpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

 

電器屋からリユース、そしてインターネットへ

 八王子駅から日野駅方面に向かうバスに乗ります。京王電鉄バスと西東京バスがかなりの高頻度で運行しており、あまり待たされることもありません。
 京王八王子駅前を経由し、国道20号線に入り、大和田橋で浅川を越えます。しばらく乗っていると、やがて国道16号線八王子バイパスと交わります。その交差点の角にあるのが「ムラウチジョーシン八王子店」です。
 一角には、電器店のムラウチジョーシンを核にBOOK・OFF、ハードオフ、ムラウチホビーが立ち並んでいます。個々の建物は小さいですがエリアとしては魅力があり、ひっきりなしにクルマが出入りしています。
 ムラウチは元々、大正期から醤油店を営んでいたものの、八王子空襲 で工場と家屋を焼失し、一度廃業の憂き目にあいました。1953年になって村内テレビとして再び商売をはじめ、長らくテレビ販売事業を営んできました。1966年には商号を「ムラウチ」へと変えています。
 ムラウチに大きな変革があったのは2000年前後のことです。まず、1997年には子会社のゼロエミッションがリユース事業を手掛けはじめ、「ハードオフ」とフランチャイズ契約を結びました。続いて1999年にはインターネット通販事業としてオンラインストアをはじめ、翌年には店の名前も「murauchi.co.jp」にするなど、インターネット通販事業に先駆けて取り組みました。そのインターネット通販事業で培った事業力を活かして、有名な「にほんブログ村」が作られています。
 2005年からは事業体制を実情に合わせるためか、インターネット通販事業がムラウチドットコムとして独立しました。リユース事業もハードオフのフランチャイズを中心に成長を遂げ、2009年には株式会社ゼロエミッションがムラウチの事業を継承し、子会社として株式会社ムラウチ電気を設立しています。このときに上新電機とフランチャイズ契約を結び、ムラウチジョーシンとなりました。
 現在ではムラウチドットコムもゼロエミッションもさらに大きく成長し、にほんブログ村は一大ポータルとなるとともに、ゼロエミッション社のハードオフ、BOOK・OFFのフランチャイズ事業は60店舗ほどにまで成長しました。しかし、ムラウチジョーシン八王子本店は2017年2月末で閉店(相模原市内の店舗と統合)し、リユースに特化したエリアへとさらなる変革をおこなっていくそうです。
 インターネットやフランチャイズが事業の中心となったムラウチですが、現在営業する実店舗として最も古いムラウチジョーシン八王子本店(4月以降はリユース館)の建物はレンガ造り風の立派な建築です。敷地内には商売繁盛を祈願する神社や、子供のプレイスペースも併設されています。BOOK・OFFやハードオフは隣接して建っており、どことなく継ぎ足して作られたような構造になっています。
 ハードオフも大きなもので、服やバッグはもちろんのこと、楽器まで扱っています。裏手に回ればDIY担当のホビー館もあり、ここにくれば様々な買い物ができる格好になっています。

 
左がBOOK・OFF、ハードオフなどが入る建物、右が「ムラウチジョーシン八王子本店」。この裏手にはホームセンターを営む「ムラウチホビー八王子店」もあります。(撮影:鳴海行人 2016年)

左がBOOK・OFF、ハードオフなどが入る建物、右が「ムラウチジョーシン八王子本店」。この裏手にはホームセンターを営む「ムラウチホビー八王子店」もあります。(撮影:鳴海行人・2016年)

 

家具から外車や美術館まで

 八王子駅前の東急スクエアの横に送迎バスが発着する場所があります。そこから40分に1本出るマイクロバスに乗ると、もう一つの「村内」に向かうことができます。こちらは村内ファニチャーアクセスといい、「家具は村内」という看板を出しています。普通、この手の看板では「家具『の』村内」と書くのが一般的かと思うのですが、この村内ファニチャーアクセスは違います。家具=村内なのです。1970年ごろに流されたラジオCMで印象を植え付けるために考え出されたキャッチコピーのようですが、実際の店もキャッチフレーズに負けないものとなっています。

 

東急スクエア横に停車中の村内ファニチャーアクセスのアクセスバス。40分間隔の運行で、どの便も数名は乗っているようです。(撮影:鳴海行人・2016年)

 

  村内ファニチャーアクセスは戦後すぐに木材店として産声を上げました。立地も不利で小さな店でしたが、サービスを尽くしたまごころ経営を武器に成長します。また、他社に先駆けてお客様向けの送迎サービスも取り入れました。
 急成長して村内家具店と屋号を変えたのち、1969年になると「村内ホームセンター」を左入町に開業しました。コンセプトは「住まいの総合店舗」。百貨店から住まいの部分を切り取った店を目指し、「ティーカップからロールスロイス」を揃える店としてオープンしました。日本で初めて「ホームセンター」を名乗った店ですが、現在の日用雑貨や住宅設備、工具を取りそろえる「ホームセンター」とは少し異なります(現在のような「ホームセンター」は1974年にオープンしたドイト与野店が最初とされています)。
 中央自動車道八王子インターすぐそばというモータリゼーションの最先端を行くような場所に建てられ、ロールスロイスのほかにもフィアットが売られました。外観はまるで結婚式場かホテルのようで、開業時からアクセスバスを降りたときはそのあまりの豪奢さに思わず「家具を買わないとだめかしら……」という気持ちになってくるほどです。

 
家具屋とは思えない、あまりにも立派な建物。エントランスから入って右手には商談コーナーが広く取られ、また館内にはレストランもあります。(撮影:鳴海行人 2016年)

家具屋とは思えない、あまりにも立派な建物です。エントランスから入って右手には商談コーナーが広く取られ、また館内にはレストランもあります (撮影:鳴海行人・2016年)

 

 しかもこの村内ファニチャーアクセスはただの家具屋ではありません。中に「村内美術館」という家具と村内氏のコレクションを展示した文化施設まで備えています。1982年にオープンしたこの美術館では、美しいデザインの椅子や西洋画が展示されています。個人コレクションを展示する美術館ならではの内容です。
 しかし、家具業界も中々厳しいようで、村内ファニチャーアクセスも例外ではありません。多摩地区に一時期数店舗を展開していましたが、いくつかの店舗は閉店しました。 そして八王子店の向かいにはニトリが出店してきています。それでも村内ファニチャーアクセスは、北欧のデザイナーズ家具を扱う「okay」を1999年から展開し、おしゃれで品質のよいものを取りそろえることで差別化を図っている。こういった頑張る地域企業というのは見ていて楽しいものです。
 また、八王子店が建つ場所は中世にこの辺りを治めた後北条氏の城、滝山城の砦の一つだった左入城があったところであり、村内はこれを偲ぶ碑を立てています。それがまた、建物が持つ威厳にお墨付きを与えているように思えます。

 
▲村内ファニチャーアクセス創業者・会長の村内通昌が左入城を偲んで建てた碑が敷地の片隅にあります。(撮影:鳴海行人 2016年)

村内ファニチャーアクセス創業者・会長の村内通昌が左入城を偲んで建てた碑が敷地の片隅にあります (撮影:鳴海行人・2016年)

 

まとめ

 八王子の思わぬ顔につづいて、頑張っている八王子の企業について取り上げました。4本の記事を通じて八王子らしさをお伝えすることができたでしょうか。
 中心市街地に大きな百貨店はなくとも、魅力たっぷりのまちであることに変わりはありません。そして、東京でありつつも、その独自の歴史と風土から一味違う東京郊外のまちとして認識されているように思います。
 八王子にとってこの「独自性」はチャンスではないでしょうか。バスに人が満載されるほどの後背人口を抱え、ほどよく中心街に時層と多様性があります。うまく八王子が絹、文化のまちとしてその歴史を再認識し、八王子らしさが復活してきたとき、面白いエリアになっているに違いありません。筆者は今回の取材を通じ、八王子の新たな可能性を感じました。
 みなさんも、ぜひ、「一味違う東京郊外のまち」、八王子へ出かけてみてください。

 
八王子駅前

八王子駅前の西放射線ユーロード (撮影:鳴海行人・2016年)

 

[参考文献]
「ムラウチジョーシン」ムラウチ電機. http://murauchi.jp/index.html (2016年11月30日最終閲覧)
「㈱ゼロエミッション」株式会社ゼロエミッション. http://www.zero-emission.co.jp/index.html (2016年11月30日最終閲覧)
「家具・インテリアの専門店 村内ファニチャーアクセス」株式会社村内ファニチャーアクセス. http://www.murauchi.net/ (2016年11月30日最終閲覧)
村内のぶひろ(2015)「村内壽一「2000年年頭にあたって」 & 第一家電創業者 永長左京「寸語録」」ムラウチドットコム社長・村内伸弘のブログ. http://murauchi.muragon.com/entry/502.html (2016年11月30日最終閲覧)
村内のぶひろ(2015)「第一家電 → ソニー → 家電市場 → ムラウチ電気。昔の名刺を一部断捨離。」ムラウチドットコム社長・村内伸弘のブログ. http://murauchi.muragon.com/entry/450.html (2016年11月30日最終閲覧)
株式会社村内ファニチャーアクセス(2007)「家具は村内八王子」村内まごころ商法 & 剛毅の経営. http://blog.goo.ne.jp/magokoroshoho/e/b26087af41c6c54be8964045fa6cf887  (2016年11月30日最終閲覧)

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鳴海 行人
matinote仕掛人・ライター・マネージャー(編集長) 90年生まれのまち探訪家。 地域を俯瞰的に見つつ、歴史を掘り下げて現在の姿への系譜を探りながら、まちを観察をしています。地誌・地方都市・総合交通体系・ロードサイド・観光・空間デザインなど様々な視点を駆使し、まちを読み解くことがひとつの楽しみです。