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淡路島へ向かう航路を追え―第2回:「淡路関空ライン」の未来はどちらだ

 前回は深日港~洲本港航路の社会実験運航について取り上げました。実はこの航路復活とほぼ同時期、同じく洲本港に発着する航路がもうひとつ復活しました。それが淡路島(洲本)~関西国際空港を結ぶ「淡路関空ライン」です。今回も、この「淡路関空ライン」に実際に乗船しながら、その歴史や経緯を振り返っていきたいと思います。

淡路関空ラインに乗る

 淡路島の中心都市、洲本市の洲本港から淡路関空ラインは出発します。洲本港からは前回取り上げた「深日洲本ライナー」も2017年6月~9月の3か月間発着していました。社会実験だった「深日洲本ライナー」の運行は終了しているため、2017年10月末現在、「淡路関空ライン」が洲本港を発着する唯一の航路となっています。

桟橋に停泊する「まりーんふらわあⅡ」。もともとは淡路ジェノバラインで活躍していた船舶(撮影:かぜみな・2017年)

 淡路関空ラインは1日5往復しており、洲本発の始発便は関空発の早朝便LCCに対応した時間帯となっています。
 使用している船舶は「まりーんふらわあⅡ」で、定員は217人と「深日洲本ライナー」に比べると大型の高速船を使用しています。屋外の2階座席があるのが特徴で、天気の良い日などは気持ちがよさそうです。
 船内にはスーツケースなどを置くことができる荷物置き場も設置されており、空港アクセスの輸送手段らしさが垣間見えます。関西国際空港までの所要時間は65分、運賃は2800円となっています。若干高めの印象もありますが、ライバルとして想定されるリムジンバスの所要時間が1時間30分~2時間ほど、運賃が2550~3100円となっています。そこまで高くない価格と言えそうです。

車内にはスーツケース置き場がもうけられている(撮影:かぜみな・2017年)


 関西国際空港ではポートターミナルに発着します。関西国際空港と神戸空港を結ぶ「神戸関空ベイシャトル」も同じ桟橋から発着しており、今回の洲本航路就航にあたり、誤乗を防ぐ掲示が桟橋に追加されました。
 ポートターミナルは関西国際空港のターミナルとは若干離れた位置にあり、バスによる連絡となります。連絡バスは船の発着に合わせて随時運行されており、船の利用者はバスの利用が無料です。ポートターミナルから第一ターミナルまでは10分、第二ターミナルまでは20分ほどかかります。

ポートターミナルと空港ターミナルを連絡するバス。船に合わせて運行するため、行先表示も「淡路島(洲本)」となっている(撮影:かぜみな・2017年)

実は…苦難の歴史の淡路島~関空航路

 淡路島と関西国際空港を結ぶ航路は、実は今回の「淡路関空ライン」がはじめてではありません。過去に様々なルート、様々な事業者が開設、運航をしてきましたが、いずれも利用客に恵まれず、休止や廃止の憂き目にあってきたのです。

関空を発着する航路。休止、廃止が相次ぎ、淡路島方面へは「淡路関空ライン(赤線)」しか残っていない (OpenStreetMapを元に作成) © OpenStreetMap contributors

 最初に淡路島と関西国際空港の航路が誕生したのは、1994年の関西国際空港開港時でした。まず前回取り上げた深日海運が社名を「えあぽーとあくああわじらいん」に変更したうえで洲本・津名~関西国際空港間で就航します。また大阪~徳島間を淡路島(洲本、津名)経由で結んでいた「共同汽船」が、洲本~津名~大阪天保山の航路を関西国際空港に寄港させることで航路を開設しました。加えて津名町(現:淡路市)と甲子園高速フェリー、大阪湾フェリーが共同で設立した第三セクター「淡路エアポートライン」も、津名~関西国際空港の就航を目指していました。しかしすでに2社が就航し供給過剰が見込まれたため、「淡路エアポートライン」での路線開設を断念することとなりました。

 いざ運航を開始してみると、「えあぽーとあくああわじらいん」の航路は関西国際空港の利用低迷で、予想の4分の1の利用者数にとどまり、過大な需要予測に基づいた過剰投資もあり、会社の経営を悪化させていきました。最終的に1997年にえあぽーとあくああわじらいん社は会社清算、当社が持っていた航路は休止となりました。
 その後残った共同汽船の航路でしたが、1998年の明石海峡大橋の開通によって大阪~淡路島間を船で渡る需要が激減し、こちらも廃業に追い込まれます。

 しかし、この廃止と入れ替わるようにして1998年より航路を開設したのが、空港開港当初は航路開設を見送っていた「淡路エアポートライン」でした。1998年より津名~関西国際空港の航路を開設して、淡路島~関西国際空港の航路を維持したのです。しかし、明石海峡大橋経由のリムジンバスとの競争に晒されたことからこの航路もやはり採算が合わず、2001年に「淡路エアポートライン」は解散となってしまいます。

航路の大きなライバルとなったリムジンバス。所要時間は2時間ほどかかるが、船に比べれば運休も圧倒的に少ない(撮影:かぜみな・2017年)

 解散後、今度は洲本市が中心となって設立された第三セクター「淡路開発事業団」が、淡路島側の港を洲本港へ変更して洲本~関西国際空港の航路を2001年に開設しました。「洲本パールライン」と命名されたこの航路は開業当初こそ年間9万人の利用がありましたが、2年間で年間6万人にまで利用客が減少してしまいます。淡路島島内自治体で設立した航路確保対策基金も2003年には底をつき、2004年以降は洲本市からの直接補助による赤字補てんが続くなど、苦戦が続きました。運賃は2500円と現在の淡路関空ラインよりも割安となっていましたが、結局この航路も2007年に休止となりました。この航路を引き継ぐ事業者はついに現れず、開港以来続いた淡路島と関空の航路は初めて途切れることとなりました。

航路復活への動き

 事態が大きく動き出したのは2015年のことでした。関西国際空港がLCCの就航に力を入れ始めたことを受け、全国的にも増加してきたインバウンド(訪日外国人)観光客を、淡路島や、ひいては瀬戸内海方面へと誘導できないかといった動きが淡路島内の観光事業者のなかから生まれ、同年「瀬戸内海島めぐり協会」が設立されたのです。この協会が淡路島と関空を結ぶ航路に目を付け、復活に向けた取り組みを行うことになりました。

 「瀬戸内海島めぐり協会」の主要メンバーの中には、淡路島北部の岩屋港と対岸の明石港を結ぶ「淡路ジェノバライン」の社長などがいたこともあり、船の確保も容易にでき、2016年の4月には淡路ジェノバラインの船舶を利用しての実証運航が行われました。
 実証運航の結果を踏まえ、10月には本格運行化を決定し、淡路ジェノバラインは新たに運営会社「淡路関空ライン」を設立して、2017年4月から運航を目指すこととしました。

 しかし、運航に必要な船員の確保が遅れ、実際の運航開始は2017年7月からになりました。公式サイトの開設が直前まで行われなかったり、かつ国土交通省の認可の2日後に運航開始となったりするなど、その幕開けは少々慌ただしいものになりました。

そこからどうするか?を考える

 淡路島にとっては念願の「航路復活」となりましたが、いくらLCCの本数増大、訪日外国人観光客の増加といった追い風があるとはいえ、ただ船を運航するだけでは、廃止に追い込まれてしまったかつての航路と同じ末路をたどってしまう可能性は否定できません。

 かねてから指摘されているのは、2次交通の弱さといったもので、洲本港からの足が決定的に不足しているというものです。淡路関空ラインでは洲本港駐車場の確保(1日300円~600円)や洲本港ターミナルビルへのレンタカー会社誘致といった手を行っていますが、もう一歩踏み込んだ施策が求められているように感じます。2017年9月からは、洲本市内で超小型電気自動車「あわモビ」の貸し出しがスタートするなどの追い風もあり、こういった取り組みとの連携も面白いかもしれません。

 また徳島駅からのバスを年内に運行申請する予定で、大手旅行社とは観光ルート作りを進めているといった話もありましたが、いまのところ具体化されていません。

 現状はハードの認知向上に力を入れている状態ですが、今後は割引きっぷや他業種との提携の強化といったサービスでどう差をつけるかといった段階に移行していくと思われます。せっかく復活した定期航路をフルに活用して、淡路島だけでなく、関空から瀬戸内海地域へのアクセスルートとして機能することを期待しています。

参考文献 

淡路関空ラインHP:http://ak-line.co.jp/(2017年10月29日最終閲覧)
神戸・関空ベイシャトルHP:https://www.kobe-access.jp/(2017年10月29日最終閲覧)
洲本市HP:http://www.city.sumoto.lg.jp/(2017年10月29日最終閲覧)
関西空港交通HP:http://www.kate.co.jp/(2017年10月29日最終閲覧)
財団法人瀬戸内海島めぐり協会HP:http://sca.or.jp/(2017年10月29日最終閲覧)
朝日新聞兵庫朝刊「海上交通網に変革の波「大橋」「新空港」にらむ船会社 兵庫」1992/04/18付
朝日新聞兵庫朝刊「関西新空港の海上アクセス、洲本から直行便も 淡路ルート2社内定」1992/08/06
朝日新聞兵庫朝刊「開港時の航路開設を断念 関西新空港アクセス便で津名町長 兵庫」1992/08/11付
日本経済新聞地方経済面近畿A「新空港―淡路島間、海上アクセス固まる――津名町3セク、共同汽船、深日海運。」1992/08/15付
日本経済新聞地方経済面近畿C「深日海運、関空発着便一日16便――深日港は3便に削減へ。」1994/08/31付
読売新聞大阪夕刊「関空―淡路島間の2航路休止 利用客少なく、経営不振で/近畿運輸局」1997/01/28付
日経産業新聞「えあぽーとあわじあくあらいん、洲本―関空―津名を休止――利用客が低迷。」1997/02/04付
日本経済新聞大阪夕刊「南海電鉄系旅客船会社、淡路航路、事実上廃業に――明石大橋開通控え。」1997/04/26付
神戸新聞NEXT「訪日外国人を淡路島へ 関空定期航路の復活検討」2015/12/19付:https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201512/0008659671.shtml(2017年10月29日最終閲覧)
産経NEWS「淡路島-関空の定期航路復活を 「瀬戸内海 島めぐり協会」発足」2015/12/29付:http://www.sankei.com/region/news/151229/rgn1512290040-n1.html(2017年10月29日最終閲覧)
神戸新聞NEXT「洲本-関空航路9日再開 10年ぶり、1日5往復」2017/07/05付:https://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/201707/0010342403.shtml(2017年10月29日最終閲覧)
神戸新聞NEXT「淡路島と関空の航路復活 10年ぶり、9日から」2017/07/07付:https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201707/0010350209.shtml(2017年10月29日最終閲覧)
産経WEST「洲本港-関空航路 明言なき周航日に多難な前途の予感、チケット予約サイトも検索できず」2017/07/08付:http://www.sankei.com/west/news/170708/wst1707080029-n1.html(2017年10月29日最終閲覧)

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渦森 うずめ

都市という現実の中に漏れ出す夢や理想を商業空間に見出して遊んでいます。逆にコンテンツという夢や理想から現実を救い上げるのもすき。つまりは理想と現実を渡り歩く放浪者(?)。消えそうなファーストフードチェーン「サンテオレ」を勝手に応援中。