【まちづくり/商業】市街地再開発の見本市!?府中駅南口再開発事業地区をめぐる―東京都府中市

東京都心と八王子市を結ぶ京王線のちょうど中間地点に位置する東京都府中市。沿線でも屈指の規模を誇る、人口26万人の都市です。
 「府中競馬」という愛称で知られる東京競馬場をはじめ、三億円事件、武蔵国総社の大國魂神社など、多様な顔を持っています。
 今回はそんな多様な顔のなかから、まちの玄関口にあたる京王線府中駅南口の市街地再開発事業について取り上げてみたいと思います。

趣の違う「3つのビル」

 新宿駅から京王線の特急電車で20分。府中駅に降り立ち、南側に出ると目の前にいくつもの小綺麗な複合施設のビルが立ち並びます。
 これらの商業施設群は府中スカイナードというペデストリアンデッキによって接続されていて、すべて市街地再開発事業によって建設された大規模商業施設です。

 駅を背にして右側(西側)にある、ガラス張りの外観が目を惹く新しいビルが「ル・シーニュ」で、2017年7月に開業した、一連の商業施設群では最も新しい商業施設にです。上層階には府中市の行政施設や分譲マンションが併設された複合開発のビルとなっています。
 「ル・シーニュ」から府中スカイナードを挟んで左側(東側)にあるのが「くるる」です。「くるる」は2005年に完成した商業施設で、TOHOシネマズやトイザらスを核として、専門店を集積した形の商業施設になっています。「くるる」という変わった名前は地区内の埋蔵文化財の調査の中から発掘された「クルル鉤」にちなんだものなのだそうです。こちらも分譲マンションが併設されています。

 

府中駅より撮影した2015年頃の当地区。奥が第二地区(伊勢丹)、左側が第三地区(くるる)、第一地区(ル・シーニュ)はまだ建設中(撮影:かぜみな・2015年)

 

 「ル・シーニュ」からさらに奥に進むと見えるのが「フォレストサイドビル」で、このビルは1996年の開業です。このビルには核テナントとして伊勢丹府中店が入居しており、専門店街「フォーリス」が併設されています。隣接してオフィスビルも建てられており、銀行や医療モールなどが入居しています。

 駅前の再開発事業やそれによる再開発ビルの存在は、さして珍しいことではありませんが、それが複数、しかもいずれも規模の大きい商業施設として建っている都市はあまり見かけないように思います。
 こうした府中駅南口の姿が完成するまでには、どういった背景と経過があったのでしょうか。

市街地再開発のはじまり

 府中駅南口の再開発の計画はなんと1960年代に遡ります。旧甲州街道が駅の南側を走っているなど、既成市街地が南側にあったこともあり、1916年の京王線府中駅開業以来、商業地としての集積は南側に進んでいきました。
 その後府中駅南口は終戦を経て野放図的に商業地が広がり、高度経済成長期を迎えるころには零細な道路や狭小な建築物で埋め尽くされる結果となりました。バスターミナルなどは土地に余裕がある北側に建設され、南口は改札口こそあれど、駅前広場もない「裏」といった様子でした。

 そういった現状が問題視され、1967年に制定された府中市総合都市計画基本構想には府中駅南口再開発の必要性と基本的な考え方などが盛り込まれることになります。構想を踏まえて1974年には府中駅南口地区再開発基本計画が策定されます。
 計画ではA~Fの6地区にわけて整備を行うとされ、そのうちB地区(現在のフォレストサイドビル)とC地区(現在のくるる)は、再開発に強い意欲を示し、早くも1976年には再開発準備組合が発足します。

 

府中駅周辺の様子 (OpenStreetMapを元にかぜみな作成) © OpenStreetMap contributors

 

 1982年には対象地域の中でも府中駅に近接するA~C地区の計3.8haを優先する形で、市街地再開発事業の都市計画が決定します。
 市内の購買力が市外へと流出していることや、大規模商業施設の立地が進まず、零細な商店が多いことなどが問題視されていたこともあり、再開発では商業施設を核とした計画が各地区で具体化していくことになります。

核テナント選定に紆余曲折ありながらも最初に完成―府中駅南口第二地区(B地区)

 一連の市街地再開発事業の中で一番順調に進んだといえるのが府中駅南口第二地区(B地区)です。第二地区では1983年頃から核テナントとなる施設の選定に動き出しており、当初は水面下で京王百貨店の出店を軸に調整を続けていました。
 しかし、当の京王百貨店は3駅隣の聖蹟桜ヶ丘に自前の店舗を建設して1986年に出店、非公式ながらも府中への出店を撤回し、再開発準備組合は改めて核テナントの選定を行うことになりました。

 1988年には名乗りを上げた百貨店4社(伊勢丹、西武百貨店、松坂屋、東武百貨店)、総合スーパー3社(ダイエー、ニチイ(現:マイカルを経てイオン)、東急ストア)にヒアリングを実施します。最終的に百貨店に絞られ、その中でも地域での知名度に後押しされる形で、同年中に核テナントとして伊勢丹を内定します。

 

伊勢丹府中店。昨今の事業縮小で、今後の存続が不安視されている(撮影:かぜみな・2017年)

 

 1989年には再開発組合が正式に設立されましたが、府中駅周辺は武蔵国の国府が置かれていたということもあり、遺跡調査が義務付けられていました。そのため、1991年より文化財遺跡調査が行われ、再開発事業はいったんストップすることとなります。それでも1993年には調査が終わり、同年末には新築工事がスタートします。
 工事は順調に進み、1996年4月に伊勢丹府中店、専門店街フォーリスが入居する「フォレストサイドビル」、併設するオフィスビル「明治生命府中ビル(現:KDX府中ビル)」が開業します。

 

駅から見て裏手のけやき並木に面して建つ専門店街「フォーリス」(撮影:かぜみな・2017年)

 

 この時に、府中駅から第二地区へのアクセスのためにペデストリアンデッキも先行整備され、1996年3月に「府中スカイナード」として開業しています。以降の再開発ビルはいずれもこのペデストリアンデッキに接続する形で建設されることになります。

有力地権者の撤退で計画に遅れも…―府中駅南口第三地区(C地区)

 第三地区(C地区)では、地区内に西友府中店が営業しており、最大地権者として参加していたこともあり、再開発計画は西友を核としたプランが作られていたと言います。
 しかし西友は1995年に府中店を突如として閉鎖し、撤退してしまいます。西友を核とする計画案は見直しを余儀なくされ、1998年に都市計画の変更決定を受けます。しかし「西友が居なくなったことで、かえって柔軟な店舗戦略をとることができた」(再開発組合事務局長の発言)と前向きに捉え、最終的に「府中にある既存の商業施設と競合せず、地域の外からも客を呼べる業態」として、「TOHOシネマズ」と「トイザらス」と核テナントとして地下と上層階に誘致することを決め、2005年に「くるる」として開業しました。

 「くるる」では、建物の上下を核テナントとし、その中間を中小のテナントとすることで、上下の核テナントの集客力を中間のフロアへも波及させることを狙う構造としました。

 

第三地区の「くるる」。普段使いのしやすいテナント構成となっている(撮影:かぜみな・2017年)

 

 また施設の性格を伊勢丹と一線を画すことを狙い、核となる大手スーパーなどを入れず、1Fの食料品エリアはその多くを地権者のテナントで揃え、以前の商店街を強く意識した店舗構成にしたり、府中市の子ども家庭支援センターを入居させたりするなど、庶民的な施設にすることを意識したといいます。また第二地区では商業施設と業務施設という組み合わせでの開業でしたが、「くるる」ではマンションを併設した住商一体開発であることも特徴として挙げられます。

 

最後まで残った駅前一等地開発-府中駅南口第一地区(A地区)

 第一地区(A地区)は第三地区と並んで府中駅前に位置する区画でありながら、地権者との調整が難航し、周辺2地区が再開発事業を完了・推進させる中でも20年近く計画が推進できずにいました。周囲が大規模商業施設へと変貌してゆく中、零細な店舗や街路が残り続け、飲食店が多く集積する府中随一の繁華街へと、第一地区そのものも変化していきました。

 しかし2002年ごろから、C地区での事業開始を受けて、A地区でも再開発事業開始へ向けて模索する動きが出始め、2003年に2度目となる再開発準備組合が発足することになります。しかしその後も地権者との調整に苦労し、本組合設立申請の条件である「事業計画への地権者の仮合意率が約70%を超えること」を達成したのは2010年のことでした。

 

2013年頃の第一地区。奥に見える大きな建物がフォレストサイドビル(伊勢丹府中店)(撮影:かぜみな・2013年)

 

 入居するテナントに関しても核テナントが決まらない状態が続き、事業を不安視する声は絶えませんでした。ようやく2011年に市街地事業組合の設立が認可され、2013年頃から工事がスタートして、2017年7月に「ル・シーニュ」として開業しました。

 「くるる」と同様に商業施設とマンションを組み合わせた複合開発として建設され、商業施設部の上層階を中心とする一部区画は府中市が67億円で買い取り、市民活動センター「プラッツ」が入居しています。この府中市の区画購入に関しては批判があがり、当時の府中市長選の焦点にもなりました。

 

2017年開業のル・シーニュ。ガラス張りの外観が目を惹く(撮影:かぜみな・2017年)

 

 肝心の商業施設部ですが、結局「フォレストサイドビル」の伊勢丹や「くるる」のTOHOシネマズやトイザらスといったような核テナントにあたるような大規模テナントは結局のところ誘致できませんでした。その代わり、府中駅の高架下から移転した「京王ストア」や、「無印良品」「成城石井」といった専門店などが核テナントに準ずるものとして位置づけられそうです。「くるる」と同様に、飲食店を中心とした3割程度の地元テナントが戻ってきており、チェーン店と混在するように出店している地元店舗の存在が独特の雰囲気を醸し出しています。

 

けやき並木側のル・シーニュ。景観に配慮して建物の高さを抑えているという(撮影:かぜみな・2017年)

 

時代を反映した三者三様の「再開発模様」

 府中駅南口の再開発は2017年の「ル・シーニュ」の完成をもって、35年にもわたる一連の事業に一つの区切りをつけることとなりました。
 長期間の再開発事業は苦労や困難も多くあったと推察しますが、一方で長期化したことにより、各地区の開業時期がずれ、コンセプトがかぶらず、個性的な商業施設群が多く立地したというメリットもあったように思います。

 最初に開業した「フォレストサイドビル(伊勢丹府中店)」は1990年代の百貨店郊外出店の流れに乗った百貨店の出店、「くるる」は2000年代のシネコンブームとマンションの建設によるまちなか居住の推進、「ル・シーニュ」も「くるる」とコンセプトが重なってしまう面は否めないものの、中心市街地活性化を目的とした府中市の施設導入や、カフェが複数入居しているスタイルといったところはは2010年代ならではであるように思います。

 現代の郊外拠点としての風格が備わった府中駅南口に降り立ってみると、さながら、市街地再開発の年輪を眺めているような気がします。1990年代、2000年代、2010年代それぞれの「空気」といったものがそれぞれの商業施設から見え隠れしていて、その違いを一挙に感じることができるのは他ではあまり類を見ないように思います。

そして、そんな府中の「ル・シーニュ」と「伊勢丹」の間のデッキを歩き、裏側へ出ると、さらなる「まちの年輪」を知ることになります。
 「ル・シーニュ」「伊勢丹」の裏側には、駅前からは見えなかった立派なけやきの並木道があるのです。この並木道は府中市街地に鎮座する武蔵国総社、大國魂神社の参道です。
 この参道は再開発事業が起こるはるか前から、府中のまちに大きな影響を及ぼしてきました。そこで次回は大國魂神社や甲州街道と府中のかかわりについて取り上げたいと思います。

 

再開発ビルの裏手に出ると雰囲気が一変する「馬場大門けやき並木」。写真奥に大國魂神社が鎮座する(撮影:かぜみな・2017年)

 

参考文献

府中市HP:https://www.city.fuchu.tokyo.jp/index.html(2017年9月9日最終閲覧)
くるるHP:http://kururu.co.jp/(2017年9月9日最終閲覧)
ル・シーニュHP:https://lesigne.jp/(2017年9月9日最終閲覧)
府中駅南口第二地区市街地再開発組合(1989)『府中駅南口第二地区第一種市街地再開発事業概要』
藤井統之(1995)「歴史が息づくふるさと府中の”顔”づくり―府中駅南口第二地区市街地再開発事業―」,『新都市開発』33(9),45-52.
府中市開発事業本部再開発事業担当(1996)「事業計画情報:東京都府中市・府中駅南口第二地区(建物名称:フォレストサイドビル・明治生命府中ビル)」,『市街地再開発』319,11-14.
府中駅南口第二地区市街地再開発組合(1997)『府中駅南口第二地区第一種市街地再開発事業誌 FUCHU ON RENAISSANCE』
府中駅南口第三地区市街地再開発組合(発行年不明)『府中駅南口第三地区再開発ビル(仮称)出店のご案内』
竹内康子(2006)「駅直結のオープンモール「くるる」誕生。府中駅南口第三地区第一種市街地再開発事業」,『再開発コーディネーター』119,10-12.
府中市地区整備推進本部府中駅南口周辺整備担当(2009)「事業計画情報:東京都府中市・府中駅南口第二地区(建物名称:くるる)」,『市街地再開発』474,18-22.
日経流通新聞「東京・府中の再開発事業出店伊勢丹など6社名乗り、10月末に最終決定。」1988/09/17付
日本経済新聞地方経済面東京「京王府中駅南口再開発、核店舗に伊勢丹、準備組合―9社の中から決定。」1988/11/17付
日本経済新聞地方経済面東京「市街地再開発組合が発足、東京・府中駅南口。」1989/02/23付
日経流通新聞「崩れる商業秩序現地レポート:再開発始動、隣接地に対抗。伊勢丹など出店・増床、なお地元に利害対立。東京・府中市」1991/06/18付
日本経済新聞地方経済面東京「京王線府中駅南口、第2地区再開発が始動―ビル2棟建設、95年9月完成予定」1992/07/29付
日本経済新聞地方経済面東京「京王線府中駅南口再開発、来月にも本格着工―遺跡調査終了へ。」1993/11/17付
日本経済新聞地方経済面東京「”府中の陣、大型店、相次ぎ開業、伊勢丹・京王電鉄―地元商店街など危機感。」1996/02/16付
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読売新聞東京朝刊多摩「府中駅南口A地区再開発 地権者44人、きょう準備組合発足」2003/10/10付
読売新聞東京朝刊多摩「[府中市の課題](中)再開発”街の顔”づくり、活性化のカギ」2004/01/22付
日本経済新聞地方経済面東京「府中駅前、「くるる」開業、開店前に行列。」2005/03/18付
日本経済新聞地方経済面東京「第1部まち盛衰のうねり(2)”地域変身”商業が左右(首都に生きる」2005/04/06付
読売新聞東京朝刊多摩「[深層追跡]府中駅前再開発多難 核テナント未定 「施設重複」の声も」2010/11/25付
日本経済新聞地方経済面東京「京王府中駅南口の再開発、都、組合設立を認可―15階建てビル建設予定。」2011/05/27付
読売新聞東京朝刊多摩「府中市長に高野氏初当選 手堅い組織力 坂内氏圧倒」2012/01/23付
読売新聞東京朝刊多摩「府中駅南口ビル市施設 再開発 67億円で建物一部購入へ」2013/08/29付
日本経済新聞地方経済面東京「中心市街地活性化へ、青梅・府中「国の認定」めざす、都内自治体で初、補助金や税優遇へ、基本計画案を策定。」2016/03/12付
読売新聞東京朝刊多摩2「府中駅南口に再開発ビル「ル・シーニュ」来月オープン」2017/06/13付
日本経済新聞地方経済面東京「府中駅南口、複合ビルきょう開業、90店が入居」2017/07/14付
読売新聞東京朝刊多摩「府中駅南口 新たな活気 再開発ビルオープン」2017/07/15付

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かぜみな

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ダイロクマチノテ代表・ライター・ポエマー 本屋と商業施設に想いをはせて、夢の跡を(強行日程で)訪ね歩く詩の人。 商業施設を訪ね歩いたり、商店街を歩いたり、バスに揺られて山奥のニュータウンにいったり、最近は離島に行くフェリーに乗るのも好きです。