【交通/まちのすがた】ソウルの「郊外」と「通勤」をみる―ソウルの感覚をつかむ:第2回

 matnote流のソウル探訪、前回は都心のダイナミックさに注目しました。
 今回は、意外に知られていない「郊外」と「交通」に焦点をあてていきます。ソウルらしい「郊外」や「交通」の特徴とはなんでしょうか。日本との共通点・相違点も織り込みながら紹介していきたいと思います。

ソウルの「郊外」―ダイナミックなニュータウン

 現代において、ソウルの「郊外」として真っ先に思いつくのが、高層マンションの立ち並ぶニュータウン的な風景です。こうした開発地域は、1970年代ごろから造成が行われ始めました。

 
水原市

水原(スウォン)市、水原華城より高層マンションを臨む (撮影:夕霧もや 2017年)

 

 ニュータウンとして代表的なのが、初期に造成された「安山(アンサン)」、「果川(クァチョン)」、そして90年代に「五大新都市」として造成された「盆唐(ブンタン)」、「一山(イルサン)」、「坪村(ビンチョン)」、「中洞(チュンドン)」、「山本(サンボン)」といった地域です。住宅整備は公的主体が中心になって行われていったため、団地的な景観を感じます。 
 これらのニュータウン地域とソウル都心は当初高速道路/一般道路を用いたバス・自家用車によって結ばれ、追って1980~90年代に鉄道路線が整備されました。

 
ソウル鉄道路線図(一部)

代表的なニュータウンと、それら地域を結ぶ鉄道路線 (鉄道路線は一部のみを抜粋)(OpenStreetMapを元に夕霧もや作成) © OpenStreetMap contributors

 

 ソウルの「首都圏電鉄」は、この地図に表した1~4号線が「第1期路線」として整備されています。2号線が都心部で江北・江南の広い範囲をカバーし、1、3、4号線が都心と郊外を結ぶという形態です。通勤の様子は後の項で詳しく取り上げます。
 このほかの地域でも、同様のニュータウン的な光景を見ることができます。戸建ての住宅地が多く展開する東京の郊外とは、少々趣を異にしていると感じます。マンションの林立は郊外の全てではないですが、やはり典型的な風景の一つと言えそうです。
 ちなみに郊外は、自治体としてはソウル市ではなく京畿道(キョンギド,道=日本における県、あるいは「関東」「東北」といった広域に近い)に属します。日本において東京郊外が周辺の県に広がっているのと同様です。
 京畿道の人口は約1200万人(2010年時点)。2000万人都市圏のソウルにおいて、ソウル市と京畿道でおよそ1:1の人口比です。

 さて、住宅地中心の「郊外」と「都心」がある以上、必然的に生じてくるのが通勤ラッシュの問題です。例に漏れず、ソウルでも存在しています。
 通勤について理解しやすくするため、先にソウルの(公共)交通事情について概観しましょう。

ソウルの都市交通システム

 ソウルの交通を考える上で入口となるのは、運賃制度です。ソウル・京畿道では鉄道とバスが全て共通のネットワークとして運営され、6回までの乗り継ぎは「ワントリップ」として通算で計算されるようになっています。この制度は李明博氏が市長だった時期の交通改革として導入されたもので、利用者にとっては極めて利便性が高いものです。この交通改革は運賃制度のみならず、バスの運行体系再編、運営の準公営化、バスの速度向上といった点まで踏み込み、ソウルの公共交通において一つのターニング・ポイントとなっています。

 
ソウルのバス

交通改革においてバスは体系立てて整理され、青色が「幹線バス」、緑色が「支線バス」、赤色が「広域バス」となりました (撮影:夕霧もや 2017年)

 

 交通改革において、焦点となったのはバスでした。ソウル市において、公共交通機関は「鉄道」と「バス」が二軸です。日本の大都市に比べ、バスの存在感は大きなものとなっています。ソウルの交通分担率(2014年)は、高い順に鉄道39%、バス27%、自家用車23%となっています。東京23区の交通分担率(2008年)が鉄道49%、バス3%、自動車11%となっているため、その差は顕著です。(ただし、集計方法が異なるためそのまま比較はできません。東京には「徒歩」が23%いますが、ソウルでは交通手段のみを集計しているようです。東京の徒歩を抜いて考えると、鉄道60%、バス5%、自動車14%程度となります)
 ソウルにおいてバスの分担率が高い理由は、高頻度運行による利便性・歴史的なバス通勤の定着・広域急行バスの存在といった点に求めることができそうです。
 まず利便性ですが、ソウルのバスは驚くほど頻繁に走ってきます。GoogleMapなどで乗り換え検索をしてみると分かりますが、頻発運転のため「~分間隔での運行」といった表示がされています。箇所によってはBRTとしてセンターレーンも整備されており、極めて便利です。
 次に、バス通勤の定着についてです。ソウルでは1968年に路面電車が全廃されたのち、長らくバスが交通手段の主役を担ってきました。地下鉄建設前の1960年代では、実に通勤者の80%がバス利用だったようです。地下鉄の整備も進められてきましたが、近年になるまでは路線も限られていました。地下鉄ネットワークが地形の関係で歪んでいる箇所もあり、今でもバス移動が便利なエリアは少なからず存在しています。

 
ソウル鉄道路線図

ソウル市中心部の交通ネットワーク路線図。赤線はバス路線 (OpenStreetMapを元に夕霧もや作成) © OpenStreetMap contributors

 

  広域急行バスについては、通勤の項で触れたいと思います。
 バスの話を中心にしてきましたが、言うまでもなく鉄道の存在感も大きなものです。数え方にもよりますが、約15~20の路線が高頻度で運行されています。
 前述したとおり、ソウルの交通網は一体として運営されています。現在、鉄道事業者はKORAIL、ソウル都市鉄道公社を筆頭に全5社が存在していますが、これらを総称して「首都圏電鉄」として扱われます。

 
首都圏電鉄1号線

首都圏電鉄1号線・ソウル(地上)駅にて (撮影:夕霧もや 2017年)

 

通勤ラッシュ―ソウルの「地下鉄」は「地獄鉄」!?

 ソウルの交通システムを踏まえた上で、ラッシュの状況を見ていきましょう。
 ソウルと東京の通勤風景には、似ている点と異なった点が存在しています。

・似ている点

 ソウルと東京で変わらないのは、鉄道によるラッシュの激しさです。日本では「通勤ラッシュ」を揶揄して「痛勤ラッシュ」と言うことがありますが、ソウルでは「地下鉄(チハチョル)」をもじって「地獄鉄(チオクチョル)」と言われているようです。

 
ソウル地下鉄2号線の混雑

ソウルきっての混雑区間、地下鉄2号線・舎堂駅にて。激しい混雑となります (撮影:夕霧もや 2017年)

 

2015年のソウル市による調査では、混雑率のトップ3は以下の路線となっています。

1.地下鉄9号線 急行 205% (塩倉→堂山,タンサン)
2.地下鉄2号線 192% (舎山,サダン→方背)
3.地下鉄4号線 176% (漢城大→吉音)
※区間は統計上に記載がないため、小池・和久田(2012)並びにTHE DAILY ONE news(2014)に準拠

 最も混雑する9号線の急行は、200%オーバーの混雑率となっています。9号線は追い抜き設備を用いて優等列車の運転が恒常的に行われており、急行に混雑が集中しているのです。
 少しでも混雑軽減を図るために、最混雑区間では急行バスも運行されています。日本でも東急田園都市線の混雑緩和策として三軒茶屋~渋谷間でバスを利用できる制度が話題となりましたが、混雑路線の事情はどこも似たようなものかもしれません。
 1号線~9号線の平均混雑率は152%となっており、平均164%の東京圏よりは若干空いているとみなすことができそうです。ソウルで最も混雑率が低い1号線は106%となっており、路線ごとの混雑差も目立ちます。2号線と9号線が混雑することから分かるよう、江南地域と東西を結ぶ路線が不足気味で、混雑する傾向にあります。

・異なる点

 ソウルと東京で異なる点は3つあります。1つめが自動車通勤の多さで、充実した道路事情が背景にあるようです。
 2つめが、鉄道の急行運転です。先に地下鉄9号線が優等運転を行っていることを記しましたが、ソウルでは急行や快速の運転はあまり盛んではありません。当初より計画された9号線・複々線を擁している1号線の仁川方面は快速が頻発していますが、他路線では遠郊外区間で一部列車が急行運転を行うに留まります。日本に例えるなら、京王線で八王子から調布まで急行として走り、以降は新宿・都営新宿線の本八幡までずっと各停として走るイメージです。そのため、通勤時に限らず昼間も遠方へは結構な所要時間を要してしまいます。
 今年に入ってから急行運転を拡充する動きもあると聞いているため、今後の動向は期待されます。
 3つめが、先述した「広域バス」による通勤です。

 
ソウルの広域バス

江南付近を走行する広域バス(レッドバス)です。座席は日本の高速バスと同じような横4列のハイバック仕様となっています (撮影:鳴海行人・2013年)

 

 広域バスは、日本で言うなら福岡市近郊へと西鉄バスが展開している近郊高速バス路線のイメージです。ソウルでは、桁違いの規模で郊外各地への広域バスが展開しています。
 2013年時点では、出勤時間帯、1日あたり計112路線・1371台が運行され、約10万人/日の利用者を捌いていたとのことです。約10万人という値はピーク1時間に中央快速線が運ぶ人数とほぼ同様で、極めて大きなボリュームです。
 水原駅~地下鉄舎堂駅を結ぶ「7770」番の広域バスを例にすると、最短2分ヘッドと運転間隔も驚異的な数字です。 

江南駅付近の広域バス待機列

江南駅付近の広域バス停留所にて。帰宅ラッシュ時には長い行列が形成されます (撮影:夕霧もや 2017年)

 

  広域バスは現在では原則着席定員での運行となっており、確実に座れるというメリットも有しています。
 東京ではバスは鉄道の補助的立ち位置となっていますが、こうした広域バスも展開できないものだろうか、と個人的には夢見てしまいます。(勿論、道路事情や渋滞といった条件が大きく異なるのですが……)

おわりに

 ソウルの「ダイナミック」さを、全2回にわたって「地形」「都心と郊外」「交通」「通勤」といった切り口からご紹介してきました。日本とよく似ているけど違う、その点を感じ取っていただければ幸いです。
 東京もソウルも、それぞれに特色を持つとともに、互いに他方が持っていない優れたシステムを有しています。例えば今回の記事ではソウルの運賃制度の利便性をご紹介しましたが、東京の運賃制度は「独立採算を可能にしている」という点は驚嘆することができます。ソウルの制度はそれ相応の財政負担がベースにあり、システムはえてして一長一短、その都市の事情に合わせて構築されています。
 海外と言えどもLCCを使えば気軽に訪れられる時代。ぜひ皆様もソウルを訪れ、当地の雰囲気を感じてみてください。

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参考文献

小池滋,和久田康雄(2012)「都市交通の世界史―出現するメトロポリスとバス・鉄道網の拡大―」悠書館.
金慶周,上林研二,三輪泰司(2005)「ソウル特別市における都市交通整備事業に関する考察」,『都市計画報告集』No.4 2005.11
金洸埴・森地茂(2008)「ソウル市のバス再編における合意形成プロセス」,『 運輸政策研究』 Vol.11 No.1 
下田雅己,清水哲夫(2013)「ソウル・京畿道における公共交通改革の考察―共通運賃制度を中心に―」,『観光科学研究』2013.03
DAILY ONE(2014)「『地下鉄』ならぬ『地獄鉄』―避けるべき韓国地下鉄路線と駅は?―」,『the DAILY ONE News』2014年10月22日配信:http://www.daily-one.com/news/198-2014-10-22-05-08-18(2017年7月9日確認)
KBSラジオ国際放送(2014)「直行座席バスの立ち乗り禁止」,『KBS WORLD RADIO』2014年7月23日配信:http://world.kbs.co.kr/japanese/program/program_dotkorea_detail.htm??lang=j&current_page=11&No=10027479 (2017年7月9日確認) 
国土交通省「東京都市圏パーソントリップ調査(交通実態調査)の結果概要」:https://www.mlit.go.jp/common/000057539.pdf (2017年7月9日確認) 
ソウル市 HP 各種統計データ:http://japanese.seoul.go.kr/ (2017年7月9日確認)
KOSIS 人口統計:http://kosis.kr/eng/ (2017年7月9日確認)

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夕霧 もや

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ラッシュアワーの秩序ある混沌を観察する人。 旅で追いかけるのは「まち」の「一瞬」。通勤・通学で混み合う交通機関や、買い物客で賑わう商業施設。その「まち」でどのように「機能」しているのか観察するのが楽しいです。 あと、ご当地の甘いものに目がありません。