東京都中央区は港区・千代田区を並んで「都心三区」と呼ばれます。港区は大使館とお金持ちの居住エリア、千代田区はオフィスビルとイメージが簡単に湧いてきますが、一方で中央区は他の2区ほどのはっきりとしたイメージはないように思います。
都内にお住まいの方だと「そうだ銀座は中央区じゃないか」なんて思い出すかもしれません。たしかに銀座は中央区です。
しかし、中央区はデパートや高級店がたくさんあるような地域というわけではないのです。もっといろんな、知られていない一面が多くあるのです。
ということで、わたしの大学時代の友人、中央区一筋22年のトントリさんを呼んで、地元の人が眺める中央区の姿について、教えていただきました。
今回は2回目!トントリさんと一緒に中央区を探検中! 前回は水天宮前の東京シティエアターミナル(TCAT)から聖路加国際病院まで歩き、中央区のディープワールドを体験しました。今回は聖路加国際病院から月島、勝どき、晴海と、ついに中央区のウォーターフロントへと足を踏み入れます。
案内人
トントリ
1994年生まれ。東京都中央区出身。生まれてからこのかた中央区以外に住んだことがない。郊外の暮らしも知りたくて、最近自動車免許の取得に向けて教習所に通い出した。
同行人(筆者)
かぜみな(@kazemina_)
1993年生まれ。東京都八王子市出身。商業施設や書店に関心が強い。都心の暮らしを知らないので、トントリ氏の普段の話が全部面白く感じる(けど実際住むのはいいかな…)。当サイトを運営する団体「ダイロクマチノテ」代表。
ウォーターフロントの最前線へ
トントリ氏に「聖路加タワーが全部病室だったら床数大変なことになるでしょ……」と笑われながら佃大橋で墨田川をわたり、南側の埋め立て地に入ります。降り立った場所は佃地区です。
佃はかの有名な「佃煮」発祥の地でもありますが、江戸時代この土地は「佃島」「石川島」と呼ばれる島でした。現在の月島地区の埋め立て地と地続きになり、現在では埋め立て地の一部のようになっていますが、神社があったり、とてつもなく細い路地があったりと、ただの埋め立て地ではない「江戸」の風情が残る地区になっています。
ちなみに北側の一部は大々的に再開発が行われて、「リバーシティ大川端」という高層マンション群へと変貌しました。
佃は下町風情が強く残るまちなみで、いままでビル群を歩き回っていた我々にとっても、駄菓子屋を覗いたり、狭い路地を歩いたりと新鮮です。そのまま南側へあるくと月島地区へ入っていきます。
月島は明治時代に埋め立てられた埋め立て地で、区画が整理され、中層のビルが多い景色へと変わりますが、メインストリートである月島西仲通りは下町の雰囲気が漂います。
月島といえばもんじゃということで、この通りにはもんじゃが70軒以上集積しているとか。時間帯が夕方という夕飯にはあとちょっと早いタイミングだったので、もんじゃする気分にはならず、そのまま通過します。
「銀座イースト」という名前がついている有料老人ホームを横目に見て、「川の向こう側なのに銀座を名乗るのかよ!」と心のツッコミを入れながらさらに南下し、運河を橋で渡れば、勝どき地区に到着です。
勝どきも月島と似たような景色が続きますが、月島と決定的に違う点は、タワーマンションが多く建設されているということです。
勝どきのタワーマンションで特筆できることとして、大手不動産会社によるものではないタワーマンションが存在するという点があります。勝どき橋のたもと、晴海通りの西側にある「プラザタワー勝どき」がそれです。具体的には勝どきに本社がある「イヌイ倉庫」(現在は合併により乾汽船の不動産事業)が独自に手掛け、2004年に分譲開始した賃貸マンションなのです。晴海通りの向かいにある「プラザ勝どき」も、1987年にイヌイ倉庫が販売開始した賃貸マンションで、こちらは勝どき地区初の大規模マンションなのだとか。
乾汽船といえば、わたしが思わず高まってしまうような、キレキレで個性的な中期経営計画が最近発表されたことで話題になりました。海運業界の現況が垣間見えて非常に興味深い内容になっているので、気になる人はぜひアクセスして探してみましょう。
勝どき駅の交差点も越えて、さらに南側、埋め立て地の先端へと歩きます。5分くらい歩くと……ガラス張りのチューブみたいな構造物が通りを横切っている光景に出くわしました。なんだこれは……
トントリ氏いわく、これが「噂の」環状2号線なのだとか。勝どきの地区は2層構造になっており、先ほど見た「チューブ」はオーバーパスしている本線だったということ。
道路は完成しており、開通を待つのみといった風情なのですが、この先の道路予定地に築地市場があり、市場が移転しないと、さらにその先の新橋方面への道路延伸ができないという状態になっており、いわば「対岸の火事」によって、なかなか開通のめどがたたず、地元民はやきもきしているとか。現在都心方面へ向かい大動脈となっている晴海通りの混雑がひどく、バスがまともに動かないこともあるそうで、「さっさと開通してほしい」とトントリ氏は言っていました。
環状2号線と清澄通りの交差点周辺にもタワーマンションが建っています。勝どき駅からは少し歩く距離ではありますが、環状2号線効果を当て込んでか、3棟のタワーマンションがこの場所に集中しています。
この地区の先にはもうタワーマンションが無く、次第に物流倉庫が増えてきます。
清澄通りを封鎖することもできる移動式防潮堤を超えるとその先が豊海町になります。つまり豊海町は基本的には港湾施設ということになるのですが、なんとその防潮堤の外側に団地が建てられています。
防潮堤には「この施設は、台風による高潮などから都民の生命と財産を守るものです。」なんて紙が貼ってあるのですが、この防潮堤の外の団地についてはどうなっているのか気になるところです。
そんな団地ですが、よく見ると1階のエントランスに向かうためには15段くらいの階段を上らないといけない造りになっています。トントリ氏が「これは高潮対策なのではないか…?」となかなかおもしろいことを言いますが、あながち間違っていない気がします。東京の真ん中で高潮対策をする防潮堤外側の団地って字面だけでも個性が強いですね。
団地も過ぎてさらに先端へ進むと、もう一棟団地のようなものが見えてきます。ただしトントリ氏によればこちらの団地は社宅として使っているそうで、つまり一般の住民が住んでいる住宅に関しては、先ほどの防潮堤外側団地が一番海寄りということになりそうです。
先端近くまで行くといよいよ倉庫ばかりになり、一般人がいて(しかも徒歩)でいいのかという気分になってきます。トラックが荷台を開けっぱなしで走っていたり、トレーラーだけがおもむろに路駐されていたり、パンチのある景色になってきました。
歩き続けると、ついに埋め立て地の終わりとなり、正面に海が広がります。突端は駐車場になっていましたが、駐車場越しに対岸の芝浦、レインボーブリッジなどの夜景が臨めます。ただし先端は歩道がなく、トラックがひっきりなしにいきかう場所なのでなかなか長居できる場所ではありません。写真を2~3枚撮ってUターンです。
晴海地区のある島は月島・勝どき・豊海町のラインにあたる島と朝潮運河を挟んで南側に位置しているのですが、どうもその運河を渡る人道橋があるそう。基本的にこの辺りには自動車が走行できるような大きな橋しかないと思っていたので、ちょっと興味がわきます。
近年建て替えられたばかりだという豊海小学校(この小学校も例の防波堤の外です)の横を抜け、高層マンションと運河に挟まれた知る人ぞ知る通路を抜けていくと、「朝潮小橋」というその橋が見えてきました。
トントリ氏いわく、朝潮小橋のたもとにある高層マンションの1階に入っているマルエツへ晴海地区からこの橋を渡って買い物に来たりすることがあるそう。この辺りの住民は思ったより気軽に運河を越えてくるようです。
ちなみに晴海側にもスーパーがないわけでなく、こちらにもマルエツがあったりするのですが、なぜか勝どき側への吸引が強いそう。
渡り切って晴海に入ると、晴海清掃工場の裏手に出ます。ここから海側へ向かえば、晴海ふ頭のターミナルなどがありますが、日もすでに暮れ、寒かったこともあって晴海トリトンスクエア方面へ直行することに。ちなみに晴海ふ頭の客船ターミナルは夜景が非常にきれいなところで、個人的に何度か足を運んだことがあります。
晴海トリトンスクエア周辺もタワーマンションが林立していますが、どうにも様子がおかしいマンションがあります。下にあるマルエツはしっかり営業しているのに、上のマンションに家の灯りがほとんどついていないのです。
トントリ氏に聞いてみると、理由は不明だが完売しないまま突然分譲が中止になったようだとのこと。氏の意見を聞いてみると「需給調整で敢えて売ってないんじゃないか」とのこと。ちなみに後日彼から「販売再開したよ!」と連絡があり、彼の推測はおおむねあたっていたようでした。
そのまま晴海通りにあたり、その向こう側にあるのが今回のお散歩最終目的地である「晴海トリトンスクエア」になります。
晴海トリトンスクエアは地区の正式名称としては「晴海アイランドトリトンスクエア」といい、竣工は2001年です。オフィスビルと商業施設の複合施設となっており、むかしは晴海高層住宅という高層アパートがあったところなのだとか。商業施設部は特徴的な空間となっており、南欧スペインのイカした感じになっています。これ以上はわたしの語彙力では説明できないので、ぜひ現地を確認するといいと思います。
トリトンスクエアの最寄り駅は勝どき駅になり、徒歩で6分ほどです。トリトンスクエアには日立自動車交通による東京駅方面と晴海トリトンスクエアを結ぶ「晴海ライナー」という路線バスが直接入っていますが、これ以外でバスに乗ろうとすると晴海トリトンスクエア前にある路上バス停から乗車することとなります。
この後トリトンスクエアで、私たちが知らない中央区の知らない顔について、トントリ氏とさらに話を進めることとなりました。そのインタビューの様子に関しては、またこんどにしましょう。
[参考文献]
清武英利(2013)「しんがり 山一證券 最後の12人」講談社
東京シティエアターミナル:http://www.tcat-hakozaki.co.jp/(2017年1月14日最終閲覧)
聖路加ガーデン:https://www.sltowers.co.jp/towers(2017年1月16日最終閲覧)
佃(東京都中央区)(Wikipedia):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%83_(%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E5%8C%BA)(2017年1月16日最終閲覧)
乾汽船株式会社:http://www.inui.co.jp/(2017年1月17日最終閲覧)
晴海トリトンスクエア:http://www.harumi-triton.jp/(2017年1月18日最終閲覧)
晴海アイランドトリトンスクエア(Wikipedia):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%B4%E6%B5%B7%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%82%A8%E3%82%A2(2017年1月18日最終閲覧)
渦森 うずめ
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