前回は、コンビニの「見た目」に注目し、普通とは違った見た目のコンビニを紹介しました。今回も普通とはちょっと変わった、ユニークな店舗を紹介していきたいと思います。
突然ですが、最近、巷でにわかに話題になっている「せんべろ」をご存知でしょうか。せんべろとは1,000円ほどで気軽にちょい飲みを楽しむことができる酒場の俗称です。立ち飲みであったり、賑やかな大衆酒場であったりと、その種類や定義に特に決まりはないと思われますが、その中には「角打ち(かくうち)」ができる店舗が含まれることがあるようです。
「角打ち」とは、元々は酒屋の店頭で升酒を直接に飲むことを指していました。それが転じて、店の一角を仕切って立ち飲み用にすることや、そこで飲むことを指すようにもなりました。
さて、前置きが長くなりましたが、ユニークな店舗とは、そんな「角打ち」ができる店舗です。流行りの「イートイン」だけではなく「飲酒イン」もできるコンビニを紹介していきます。
オフィス街の一角に、会社員の「渇き」を潤す店舗あり
ここ数年で急速に拡大しているコンビニのイートインスペース。みなさんも食事や休憩で利用された経験はあるのではないでしょうか。「セブン-イレブン」では約1万9千店(2017年3月時点)ある店舗のうち4千店強にイートインを設けるとのことで、今後さらにイートインスペースを設けたコンビニを目にする機会は増えていくと思われます。
そんな「イートインバブル」ともいえるいま。その中で、イートインスペースだけでなく店内厨房を設け、さらにはお酒まで楽しめる独創的なコンビニがあります。それが東京都中央区新川にある「コミュニティストア 新川一丁目店」です。最寄り駅は証券会社が林立する金融街に近い、東京メトロ東西線茅場町駅です。駅を出て、永代通りを東へ進んで新川1丁目交差点を右に曲がると、その店舗はあります。オフィス街に立地しているということもあり、会社員の需要を狙った「コミストキッチン」というブランドで営業しています。
コミュニティストアのプレスリリースによると、コミストキッチンとは、時間帯別のお客様ニーズに合わせた「食」の提供を可能にする新しいブランド で、店内厨房と可動式イートインスペースを有し、「朝の顔」として『カフェ』、「昼の顔」として『手作り弁当』、「夜の顔」として『ちょい呑み』をコンセプトに、オフィス街のライフサポートを実現する店舗 ということです。
近頃話題になっている「朝活」需要に応え、手作りのお弁当を提供することでランチタイムにはお腹を満たし、さらには仕事終わりの一杯まで楽しませてくれる、会社員の1日に寄り添った店舗と言えるでしょう。
さて、この店舗が生まれた背景として、運営企業に目を向けると、面白いことがわかります。
コミュニティストアは国分グローサーズチェーン株式会社という企業が運営しています。同社はコンビニエンスストアの経営やフランチャイズチェーン加盟店の経営指導などを行い、コミュニティストアは同社の扱うチェーンストアのブランド名です。
この国分グローサーズチェーン株式会社、酒類や食品などの卸売を行う国分グループ本社株式会社の子会社です。国分グループの創業は1712年で、江戸・日本橋に「大國屋」の屋号で店舗を構え、創業時は呉服を手掛けるとともに、醤油醸造業に着手していました。
その国分グループ本社株式会社が、取引先の酒販店の経営支援のために1978年にスタートさせたのがコミュニティストアの前身である国分グローサーズチェーン(KGC)でした。そのため、地域の酒販店から業態転換した加盟店が多いことが特徴です。
チェーンストアの生まれたこうした経緯を踏まえると、新川一丁目店というのは、実にコミュニティストアらしい店舗と言えるのかもしれません。
コンビニなのかバーなのか、豊富な種類のお酒を楽しめるお店
続いて紹介するのは、商店街の一角にある店舗です。それが、東京都大田区東雪谷にある「Yショップ東雪谷 伊勢屋 BAR ISEYA」です。最寄り駅は東急池上線の石川台駅。駅近くにある石川台希望ヶ丘商店街を南東に500mほど進むとその店舗はあります。
このコンビニも「BAR」と店名にある通り、店内で「角打ち」が楽しめる店舗です。もともとは酒屋さんであったことから、店内には様々な種類のビール、日本酒、焼酎、そしてワインなどが置かれています。
そして、店内に設置されたカウンターで注文すればグラス1杯から気軽にお酒を楽しむことができます。また、クラフトビールの飲み比べセットやおつまみも取り揃えられています。さらに、店内にあるBARスペースを利用してワイン試飲即売会などのイベントも行われています。
そもそも「ヤマザキショップ」という業態そのものもなりたちがユニークです。先ほど紹介したコミュニティストアと同様に、山崎製パン株式会社がフランチャイズ方式で中小小売店の販売支援のために行っている小売店業態のブランド名なのです。そのため、独自色の強い店舗が多く、それゆえこういった「BARコンビニ」が生まれたのかもしれません。
酒販店からコンビニへ、そして「角打ち」コンビニへ
これまで、飲食のためのイートインスペース以上の機能を持たせた、「角打ち」ができるユニークな店舗を紹介してきました。
そもそも、日本のコンビニの歴史を見ると、酒販店などの街の小さな小売店がコンビニへ転業するパターンが1980年代までは主流でした。これはセブン-イレブンの例ですが、商店街を近代化・活性化させてスーパーなどの大型店舗との共存共栄を図るために、既存の酒販店のような小売店を仲間にしていくシステム(フランチャイズ方式)が採用されたと言われています。そのため、最初からコンビニにはここで紹介したような「角打ち」のポテンシャルが備えられていたのかもしれません。
普段、買い物を済ませてすぐに出てしまうコンビニですが、ここで紹介したような店舗は滞在してお酒を味わう「角打ち」を体験することができます。ぜひ機会があれは「角打ち」コンビニに立ち寄って、晩酌を楽しみつつ、またコンビニの歴史にも思いを馳せつつ、少し贅沢な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
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参考資料
満園勇(2015)「商店街はいま必要なのか「日本型流通」の近現代史」,講談社現代新書.
日本経済新聞(2017)「コンビニ対ファストフード、胃袋争奪」日本経済新聞,2017年3月28日 0:37配信,https://www.nikkei.com/article/DGXLZO14583370X20C17A3TI1000/(2018年4月20日最終閲覧)
国分グループ本社株式会社 国分グループのあゆみ:http://www.kokubu.co.jp/company/history/ (2018年4月24日最終閲覧)
コミュニティストア 企業概要:https://www.c-store.co.jp/corp/gaiyou.html (2018年4月23日最終閲覧)
コミュニティストア2016年3月8日付ニュースリリース『コミストキッチン新川一丁目店』新装開店!~コミュニティ・ストアの新業態店舗始動!~: https://www.c-store.co.jp/corp/news_160308_kitchen.html (2018年4月20日最終閲覧)
ヤマザキショップ:https://www.yamazakipan.co.jp/shops/yshop/index.html (2018年4月24日最終閲覧)
Yショップ東雪谷 伊勢屋 BAR ISEYA:https://iseyateyuki4122.on.omisenomikata.jp/ (2018年4月20日最終閲覧)
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