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商人の誇りが息づく街・茨城県桜川市真壁 -その3(最終回):観光地になった真壁と住民の姿

 前回はまちおこしのため、観光の対象として「再発見」された真壁の街並みを紹介してきました。今回はいよいよラスト、真壁の「観光地」としての姿と真壁のひなまつりに焦点を当てていきます。

観光客への気持ちが生んだ「真壁のひなまつり」

 まずは真壁の有名なイベントとして、ひなまつりを簡単にご紹介します。3月3日のひなまつりの1か月前の2月4日から「真壁のひなまつり」は開催されます。初開催は2003年のことです。きっかけは徐々に増えてきた真壁の来訪者に対して、「寒い中、真壁の町並みを観るために来てくれた人たちをもてなそう」という有志の住民の思いでした。

真壁のひな祭り

真壁のひなまつり開催中はまちのそこここに立派なひなが飾られます (撮影:白井大河・2017年)

 2003年当初は21軒でスタートし、翌年は75軒、3年目は117軒、4年目は148軒と自然発生的に広がっていき、いまでは160軒以上が雛人形を公開するようになったといいます。2017年で15回目を迎え、筆者が2月に訪れた時も盛況な様子をうかがうことができました。特に地元の人たちが出店を開いていたり、自宅の庭で品物を販売していたりしていた姿は印象的でした。まさに「商人の気質」が息づいているのでしょうか。

真壁のひな祭り-出店

真壁のひなまつり期間中はまちのあちこちに地元住民の出店が出ます。観光客に食べ物や土産物を販売しています。 (撮影:白井大河・2017年)

重伝建「真壁」に生きる人々

 前回の記事で、真壁町は重要的建造物群保存地区に登録されているとご紹介しました。そこで、歴史のある街並みについて住んでいる方々との関係から見てみましょう。
 まず、登録されるにあたって「街並みの修正」が行われました。真壁では主に電線の地中化や道路の整備、町並みに合った駐車場の整備がなされています。
 各地で電線の地中化が行われていますが、真壁では常陽銀行真壁支店が面する仲町通りで地中化が完了しています。すっきりとした町並みになり、通行しやすくなったように見えます。
 また、増加する観光客に対応するために、町の北西部に町並みに合った公衆トイレと駐車場が設けられました。そして、駐車場が面する道路の両端には石畳の歩道が整備されています。

真壁市街の駐車場

新しく市街地に準備された駐車場 (撮影:白井大河・2017年)

 さて、このように観光地として整備された部分を見てみると、観光地に対して人が抱いているだろう「景色はこうあって欲しい」「この観光地はこうあるべきだ」というイメージがなんとなく透けて見えてくるように思います。もちろん、真壁に洋館のような公衆トイレが整備されてもあまりにも不自然なので、調和のとれた建物にするのは当然かもしれません。ですが、近年建てられた住宅も当然存在する中で、真壁全体の建物の象徴として「歴史を感じる木造建築」が取り上げられ、この公衆トイレのようにそれを模して造られるというのは面白いことだと思います。
 また、重伝建に登録されると、簡単に家屋の修理や建て替えができなくなってしまいます。住民の方々からすると、街並みが誇りになる一方、少々不自由な生活を送ることになってしまいます。歴史のある建物を残していた理由も、「愛着があるから」など意識的に残していた人もいれば、「更新するにも費用がかかるから」という理由の方もいることがアンケートから分かっています。

したたかに生きる真壁の人々

 今まで紹介したように、それまでの生活の場から観光地へと真壁は変化していきました。しかし、変化のうねりの中で真壁の人々はただ変わりゆく環境に受け身になるのではなく、見事に乗りこなしているように感じられます。1つは観光客を受け入れ、新たにひなまつりという観光の目玉を創り上げたこと。そして、ひなまつりをお目当てに訪れた観光客と交流しつつも、庭先に商品を広げて縫物や地元の食材を振る舞っていたこと。そこには真壁に住む人々のやさしさと、かつてこの地で活躍した商人のようなしたたかさ、バイタリティが今も息づいているように感じることができました。

[参考資料] 大豆生田稔(2011)北関東における近江商人辻善兵衛家の酒造経営 ―明治前期を中心に―https://www.toyo.ac.jp/uploaded/attachment/902.pdf(2017年2月10日最終閲覧)
河東義之・藤川昌樹(2006)『真壁の町並み―伝統的建造物群保存対策調査報告書―』桜川市教育委員会
GOOD DESIGN AWARD 2013 http://www.g-mark.org/award/describe/40332(2017年2月10日最終閲覧)
真壁石材協同組合ホームページ 〜やすらぎを生む伝統の光 真壁石紹介|真壁石 http://www.ibarakiken.or.jp/makabe/makabeisi/history.html(2017年3月6日最終閲覧)
まちづくり実践レポート~北から南から~ 茨城県桜川市真壁町 歴史的町並みを活かした“語り”のあるまちづくり――「真壁のひなまつり」で10万人を集客 http://www.jamp.gr.jp/academia/pdf/105/105_02.pdf(2017年3月6日最終閲覧)
みどり市名所探訪第5回岡直三郎商店(大間々町)http://www.city.midori.gunma.jp/www/contents/1469520437706/files/20160818.pdf(2017年3月6日最終閲覧)

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各地の景観と調和した「オシャレコンビニ」研究の第一人者(自称)。 出先で気になるのは「らしい雰囲気」を醸してる構成物。南国っぽいヤシの木や、なんとなく和なテイストのナマコ壁の収集もやっています。「見られる」ことを意識した風景を読み込むことが好きです。