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「再発見」される真壁の街並み-商人の誇りが息づく街・真壁:第2回

 前回の記事では真壁町の歴史を紹介しました。今回は、明治以降に栄えた石材業の衰退から、新たな道を模索する住民の取り組みと、そこで「再発見」された真壁の街並みを散策ルートとともに紹介します。

町並みの「再発見」

 真壁のまちは石材業の衰退と筑波鉄道の廃線(1987年)によって活力を失っていきました。その当時、バブル期を迎えた日本は「ふるさと創生」に湧き、まちおこしの機運が高まっていました。真壁では、住民が歴史的な町並みの価値を「再発見」し、住民たちによる「ディスカバーまかべ」という団体が1993年に誕生します。
 この団体は、歴史的建造物の調査をはじめ、蔵や歴史的な庭園を活用したコンサート、絵画展、シンポジウムやフォトコンテストなどの活発な事業を展開しました。そして登録文化財制度への取り組みを真壁町に働きかけ、この後に紹介する潮田家住宅が1999年に真壁での国指定登録文化財登録第1号となりました。

真壁の「いま」を歩く

 それでは今の真壁の町並みをご紹介しましょう。古いものでは江戸時代の1853年以前に建てられた家屋と蔵が残るほか、明治から昭和初期にかけて建てられた建物が数多く残されています。そのため、歴史的な街並みの景観が広く残されている地域を保護する「重要的建造物群保存地区」(以下重伝建)に選定されました。
 町並みは真壁町真壁に面的に広がっていますが、ここではつくばセンターから路線バスを経由して訪れた想定で、オススメのルートとともにご紹介します。

 

今回の記事で紹介する、桜川市真壁地区のまちあるきルート (OpenStreetMapを元に夕霧もや作成) © OpenStreetMap contributors 

 
 

街はずれの庁舎から散策スタート

 つくばセンターからバスを乗り継ぎ約90分、車窓から流れる筑波山を右手に見つつ、のどかな風景を抜けると真壁の市街地が見えます。小さなバスでたどり着いたのは、バスの終点、桜川市真壁庁舎です。庁舎からは東へ向かって歩いていきます。

 

桜川市役所真壁庁舎前に停車する実証運行バス。関鉄パープルバスが運行しています (撮影:白井大河・2017年)

 

「関東の三越」と呼ばれた豪商の見世蔵

 庁舎から10分ほど歩くと、交差点の角にひと際重厚感のある建物が見えます。こちらがかつて呉服太物商を営んでいた潮田家の住宅です。先ほど紹介した、真壁町で初めて登録文化財として認定された建物です。潮田家は江戸時代末期から明治期にかけて商圏を広げ、「関東の三越」と呼ばれるようになったといいます。見世蔵と呼ばれる店舗と住宅を兼ねた建物で、1910年に建てられました。

 

こちらが潮田家住宅です。2階部分の黒壁や奥に見える蔵が重厚感を引き立てています (撮影:白井大河・2017年)

 

真壁のシンボル――旧真壁郵便局――

 潮田家住宅の交差点を北上し、さらに進んでいきます。途中には古い道路標識なども残されており、建物だけでなく、様々なものたちがタイムスリップしたような雰囲気を作り出してくれています。
 街並みを楽しんでいると、木造の住宅が目立つ真壁の中でもとりわけ目を引く建物が現れます。石で造られた洋風の建物が旧真壁郵便局です。1927年に建てられた郵便局で、1986年まで使われ、現在は郵便局の内装外装そのままに休憩所として利用されています。和風な建物が多い真壁で目立つ洋風建築の建物です。この郵便局がある辺りは真壁の中心部であり、真壁で訪問客にむけて配られているパンフレットには「シンボル」として取り上げられています。まさに「画になる」建物といえます。

 

白い外観が目を惹く旧真壁郵便局 (撮影:白井大河・2017年)

 

旧真壁郵便局の手前に立っている古いタイプの案内標識です。真壁の街の雰囲気にアクセントをつけてくれている気がします (撮影:白井大河・2017年)

真壁の中心通りを進んで

 郵便局からさらに歩いていくと、右手に街の本屋さん「川嶋書店」が見えてきます。この周辺には商店が立ち並んでおり、規模は小さいながらも商業の集積を見ることができます。T字路を右に曲がった先も商店が立ち並んでおり、常陽銀行の真壁支店もこちらにあります。

 

常陽銀行真壁支店のある通りには商業の集積が見られます (撮影:白井大河・2017年)

 

新旧が調和するカフェ併設旅館 ―新宿通り―

 交差点をさらに北上すると、続いて目の前に格調高い立派な外装の建物があります。こちらが江戸時代末期からある橋本旅館です。旅館の建物は1929年に建てられていますが、館内はリノベーションされて「橋本珈琲」というおしゃれなカフェが併設されています。訪れたときは残念ながら定休日の火曜日で、カフェの雰囲気を味わうことはできませんでした。もちろん、カフェだけでなく旅館に宿泊することも可能です。

 

「全旅連」の看板も味がある橋本旅館 (撮影:白井大河・2017年)

 

廃線と廃駅を感じて

 橋本旅館を後にして、今度は東へと進んでいきます。すると、道は自転車と歩行者の専用道路と交差します。この専用道路が現在「つくばりんりんロード」として整備されている、かつての筑波鉄道の線路跡です。
 南下して旧真壁駅の方に向かっていきましょう。東屋などが置かれ、休憩スペースになっている空間は、見る人が見れば一目で駅があったと分かると思います。現在もプラットホームだったと思われる構造物が残されており、当時を偲ぶことができます。
 旧真壁駅で少し休憩したら、再び真壁の中心地へと戻っていきましょう。

 

筑波鉄道の廃線跡「つくばりんりんロード」 (撮影:白井大河・2017年)

 

ルーツは近江の酒蔵 ―上宿通り―

 旧真壁駅から西へと進んでいくと、再び道の両側には民家が立ち並びはじめ、市街地に戻っていると感じることができます。ずんずんと歩いていくと、下宿十字路という信号のある交差点の手前に白と黒の重厚な壁が見えます。こちらは前回の記事で紹介した、行商で知られる近江商人にルーツを持つ村井醸造です。明治初期に建てられた店舗や、大正期につくられ、地元の特産品である真壁石で造られた石蔵があります。また、筑波山の伏流水を使用した銘酒「公明」などを取り扱っています。それ以外のお酒も試飲を行っていますので、真壁を訪れたときのお土産に是非いかがでしょうか。

 

ズバリ「真壁」というお酒も……お土産に好適 (撮影:白井大河・2017年)

 

バラエティに富んだ建物群

 村井酒造を後にし、散策のゴールである真壁伝承館へ向かいます。その真壁伝承館では真壁の歴史を知ることができます。真壁の市街地のジオラマも置いてありますので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

 さて、ぐるっと真壁を巡り、歴史のある街並みを紹介してきました。家屋や蔵がメインですが、建てられた時代や形態、素材などがバラエティに溢れているので、「古い感じ」にまとまって見えながらも変化のある景観になっている印象を受けます。
 次回はいよいよ観光地となった真壁で催されるひなまつりに迫っていきたいと思います。住民の「おもてなし」の心が生んだ真壁のひなまつりですが、筆者はそこに「商人」の心を垣間見ます。次回もぜひぜひお楽しみに。

[参考資料]

大豆生田稔(2011)北関東における近江商人辻善兵衛家の酒造経営 ―明治前期を中心に―https://www.toyo.ac.jp/uploaded/attachment/902.pdf(2017年2月10日最終閲覧)
河東義之・藤川昌樹(2006)『真壁の町並み―伝統的建造物群保存対策調査報告書―』桜川市教育委員会
GOOD DESIGN AWARD 2013 http://www.g-mark.org/award/describe/40332(2017年2月10日最終閲覧)
真壁石材協同組合ホームページ 〜やすらぎを生む伝統の光 真壁石紹介|真壁石http://www.ibarakiken.or.jp/makabe/makabeisi/history.html(2017年3月6日最終閲覧)
まちづくり実践レポート~北から南から~ 茨城県桜川市真壁町 歴史的町並みを活かした“語り”のあるまちづくり――「真壁のひなまつり」で10万人を集客http://www.jamp.gr.jp/academia/pdf/105/105_02.pdf(2017年3月6日最終閲覧)
みどり市名所探訪第5回岡直三郎商店(大間々町)http://www.city.midori.gunma.jp/www/contents/1469520437706/files/20160818.pdf(2017年3月6日最終閲覧)

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各地の景観と調和した「オシャレコンビニ」研究の第一人者(自称)。 出先で気になるのは「らしい雰囲気」を醸してる構成物。南国っぽいヤシの木や、なんとなく和なテイストのナマコ壁の収集もやっています。「見られる」ことを意識した風景を読み込むことが好きです。