愛知県北部にある小牧市。市東部には名古屋の郊外住宅地として造成された桃花台ニュータウンがあります。1980年に入居がはじまり、1991年にはアクセス路線として新交通システム「桃花台新交通桃花台線」(愛称:ピーチライナー)が建設されました。しかし、利用者数が伸び悩み、2006年には早くも廃止されてしまいました。
しばらくの間、高架構造物はほとんど残されたままになっていましたが、2015年ごろから順次撤去が始まっています。今回は、順次撤去されつつある桃花台線の廃線跡に沿いつつ、市中心部から市東部を中心に紹介します。
また、最後に市西部を中心とした産業都市としての特性も紹介し、小牧市の全体像をお伝えできればと思います。
(現地取材:2020年3月)
小牧駅周辺の中心市街地を歩く
市の玄関口は名古屋鉄道(名鉄)小牧線の小牧駅です。名鉄小牧線は市内を通る唯一の鉄道路線で、現在の小牧駅は地下駅となっています。
小牧駅は1920年に名古屋電気鉄道の手で現在の小牧4丁目付近に開業し、はじめは岩倉と小牧を結ぶ路線の終着駅でした。その後、1931年に大曽根線(現在の小牧線)の駅として「新小牧」駅が現在の小牧駅近くに開業し、駅の統合を経て1989年に連続立体交差事業によって現在の小牧駅の位置に移転しました。
1991年には桃花台線(ピーチライナー)が開業し、同線の始発駅となり、ほぼ現在の形となりました。その後、2006年に桃花台線は廃止となり、現在の姿となっています。
小牧駅は連続立体交差化事業と桃花台線の整備事業が同時期に行われたため、2路線が一体的な構造になっています。駅の改札を出て、階段を上がって東口側に出ようとすると、目の前にあるのが桃花台線の小牧駅跡で、2021年1月現在では本格的に解体が進んでいます。
小牧市の中心市街地は小牧駅の西側にあります。中でも目立つのが駅から徒歩3分のところにある再開発ビルの「ラピオ」です。
「ラピオ」にはかつて核となるテナントとしてイトーヨーカドー、その後に平和堂系のアル・プラザが入っていました。現在はいずれも撤退し、1階に食品スーパーの「Mikawaya」、上層階にはえほん図書館をはじめとする市の施設が入っています。しかし、正直に言うと大きな建物を持て余している印象を受けました。
小牧駅と駅前中心市街地の存在感の薄さは小牧市の課題となっており、ラピオの現状も市街地の存在感が薄いことに起因するところがあります。
小牧市では中心市街地の存在感を高めたいのか、現在ラピオと小牧駅の間の場所で新図書館の建設工事を進めています。果たして新図書館は中心市街地の活性化につながるのでしょうか。ラピオの今後と合わせて注目していきたいところです。
撤去が始まった「桃花台線」をたどり、ニュータウンへ
それでは、桃花台線の廃線跡をたどって桃花台ニュータウンへ向かいます。
桃花台線は、既存の鉄道路線から離れていた桃花台ニュータウンの足として小牧~桃花台東間に開業した鉄道路線です。小牧から小牧原までは名鉄小牧線と並行して走り、小牧原から東に方向を変えて桃花台ニュータウンへとつながっていました。
特徴的なのは、中量輸送システムの新交通システム(VONA)を採用していたことです。さらに一方向にしか進めないタイプの車両を導入し、折り返し駅であった小牧駅と桃花台東駅には折り返し用の巨大な高架ループ線が建設されていました。
小牧駅の様子は先ほど紹介した通りですが、小牧原駅から桃花台方面へ向かうと基本的な構造物が残っている場所が多くあります。なかでも途中駅のひとつ、上末駅は入口がふさがれた状態で残っています。
そのまま線路跡をたどり、小牧駅から5kmほど離れたあたりで桃花台ニュータウンに入っていきます。
桃花台線は桃花台ニュータウン内に3つの駅を設け、そのうち桃花台ニュータウンの中心エリアには「桃花台センター駅」がありました。駅前にあたる場所には複合型商業施設の「ピアーレ」が現在もあります。1991年の開業時から核テナントとして総合スーパーの「アピタ」が入居していましたが、運営企業の方針もありアピタは2019年に「MEGAドン・キホーテUNY」に生まれ変わりました。
「桃花台センター駅」の次の駅が、終点の「桃花台東駅」でした。駅周辺は線路の撤去が進み、「中部の駅百選」に選ばれたことのある駅舎も現在は見られなくなっています。
桃花台ニュータウンは、開業からわずか15年で廃止になった桃花台線の失敗はもちろん、ニュータウンそのものに対しても厳しい評価がなされがちな印象があります。確かに当初の計画人口の見積もりが甘かったことは否めず、その後開発計画は縮小されています。
しかし、現在の桃花台ニュータウンを見てみると高齢化率もいまだ高くなく、歩いてみても歩車分離がなされていることもあって、緑の多い良好な住宅地に見えました。
小牧から名古屋市中心部へはバスか鉄道か
桃花台線が廃止となる原因となった利用客数の伸び悩みにはいくつかの理由が挙げられます。その中でもよく挙げられる理由が、「名鉄小牧線は名古屋市中心部へのアクセス手段として不便だった」という理由です。
桃花台線が開業した当時、名古屋市の中心部に向かうには名鉄小牧線で上飯田駅に向かい、名古屋市営地下鉄の平安通駅まで1kmほど歩いて乗り換える必要がありました。
この状況は2003年に名古屋市営地下鉄上飯田線(上飯田~平安通)が開業することで解消しました。しかし、桃花台線を利用して名古屋市中心部に行くためには、名鉄小牧線の駅と平安通駅で2回の乗り換えを要したことは変わりませんでした。
現在も小牧駅から名古屋市中心部へ鉄道で向かおうとすると平安通駅で乗り換えが必要です。
一方で、小牧から名古屋市中心部へ乗り換え無しで向かう方法があります。それが名鉄バスの運行する近距離高速バスです。桃花台から小牧駅・小牧市中心部を経由し、名古屋高速で栄・名駅方面に向かいます。
土曜日のお昼前に小牧市役所前バス停から栄・名駅方面のバスに乗ると、車内には乗客が10人程度いました。さらに名古屋高速に入るまでに5人ほど乗客が増えました。やはり名古屋市中心部に買い物等に行く人たちが利用しているようです。
運賃は小牧市役所からの場合は640円で、桃花台からも790円で名古屋市中心部までたどりつけます。運行もスムーズで、20分少々で栄に着いてしまいました。小牧駅から乗っても30分程度です。また、乗り換え不要なのは楽だと感じました。
また、桃花台ニュータウンからであれば、ニュータウン内を通過する中央自動車道の「中央道桃花台バス停」から中央道経由の高速バスに乗るという選択肢もあります。
中央道桃花台バス停には、バス停利用者の送迎用ロータリーと、名鉄協商の運営するパークアンドライド駐車場が設置されています。これは、隣接していた桃花台線旧車両基地用地を再活用しています。現地を訪ねたときは、土曜日の夕方という時間帯が悪かったのか、バス停及びロータリーの利用者には残念ながら出会うことができませんでした。
しかしながらコインパーキングには一定数の車が停まっており、その隣の月極駐車場もそれなりの台数があったことから、ある程度の利用が存在すると考えられます。いずれ、平日の様子をまた見に来たいと思います。
「郊外住宅地」だけではない! 物流・工業都市としての小牧
高速バスの利便性の高さからもお分かりいただけるとは思いますが、小牧市内には東名、名神、中央道、名古屋高速が通っており、道路交通において非常に便利な場所です。そのため市内各地に物流センターや工場が立地し、小牧の物流・工業都市としての側面を生み出しています。
物流施設は市西部に多く立地しています。駅から遠く離れたところにありながらも、トラックターミナルやビジネスホテルなどもあり、出張者が多いのだと想像できます。また、トラックターミナル近くにあるコンビニの駐車場に停まっているトラックは圧巻の数でした。
工業都市としての小牧では、工場直売店の存在感も光ります。私も東海地方ではおなじみの「しるこサンド」を製造する松永製菓の直売店に立ち寄り、製造過程で割れてしまった「割れビス」を安く購入することができました。
松永製菓以外にも、カステラで有名な長崎堂の工場直売店や、バウムクーヘンで有名なエースベーカリーの工場直売店もあって、お菓子好きには嬉しいところです。
また、工業都市に特有の現象として、多くのブラジル人が居住していることも大きな特徴といえるでしょう。小牧市は人口約15万人のうち外国人が約9,000人と言われており、その3分の1にあたる約3,000人がブラジル人です。市内にはブラジル人向けのスーパーもあり、肉類の充実具合にはブラジルらしさが感じられました。ここではブラジルを代表するピーナツ菓子「パソキッタ」を購入しましたが、店員さんもそこまで日本語が得意ではなさそうな様子で、日本にいながら現地のスーパーで買い物をするような気分を味わうことができました。
多面性を持つ小牧市の強み
駆け足ではありましたが、小牧市の様子を紹介してきました。
小牧市中心部は、名鉄小牧線の不便さゆえに小牧駅の存在感が薄く、いまいちにぎわいに欠ける印象を受けました。桃花台線も廃線になっている現状を考えると、中心部の活性化のためには集客施設を建設するのに加えて、それに合わせたバスの利便性向上や、車でもアクセスしやすい駐車場の整備なども必要だと感じました。
桃花台ニュータウンは住環境がよいという印象を受けます。名古屋市へ通勤するのはなかなか厳しそうですが、小牧市や隣の春日井市に車で通勤する子育て世代に向けた良好な住宅地として、ひとつの選択肢となる可能性が秘められているように感じました。
工業エリアは、空港に近くまた道路交通の要衝でもある、小牧市の物流面における優位性が感じられました。工場や物流施設の集積は、市内に働く場所があるとも言えます。職住近接の意識が高まっている今の時代にはプラスになりますし、税収面でもその恩恵は大きいはずです。
小牧市はいろいろな側面を持つ都市のため、まとまりにかける都市のように見えるかもしれません。逆に言えば、市内に厚みのある工業エリアと良好な宅地、豊かな自然に恵まれています。つまり、「職住近接」を実現可能し、意外と住みやすいといえるでしょう。そういう意味で小牧市は一歩進んだまちといえるのかもしれません。
石川 ゆうき
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- 新交通システムの廃線跡が残る名古屋の郊外都市「小牧市」をめぐる - 2021年1月23日