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【商業/まちのすがた】「サザン」じゃない茅ヶ崎を見に行く-茅ヶ崎駅北口の多様な商業模様

 暑い日々が連日続いていますが、そんな夏を代表するアーティストとして、「サザンオールスターズ」があります。彼らのリーダー的存在である桑田佳祐は、神奈川県茅ケ崎市出身であることを公言しています。ラチエン通り、ホテルパシフィックなど、茅ヶ崎の周辺にある通りやホテルを曲のタイトルにつけたり、茅ヶ崎市が「サザンビーチちがさき」として海水浴場を整備していたりと、茅ヶ崎と彼らとの関係は非常に深いものがあります。その結果として茅ヶ崎市は「海岸線沿いの湘南の街」というイメージが持たれることが多くなりました。

 では海岸線沿いではない茅ヶ崎は一体どうなっているのでしょうか? 実は茅ヶ崎にはまだ知られていない側面が多くあるのです。今回はそういった「サザン」でない茅ヶ崎を紹介したいと思います。さらに、茅ヶ崎の郊外として機能し、一方で独自性もみせる北隣の「寒川町」も同時に話していきたいと思います。

 まず手始めに、地元の人の消費の場である「茅ヶ崎駅周辺の商業」を歩いて巡ってみることにします。

 

今回訪ね歩いたエリア(OpenStreetMapを元にかぜみな作成) © OpenStreetMap contributors

 

茅ヶ崎駅北口を歩く

 東京から東海道本線に揺られて50分。茅ヶ崎駅に降ります。改札を出ると目の前に「ラスカ茅ヶ崎」の入口が目に入ります。「ラスカ茅ヶ崎」は長い間、規模の小さな駅ビルでしたが、2015年に大幅増床を行い、若い世代にフォーカスしたテナントを多く導入しました。しかし従来の施設部分と増床部分とのつながりが悪く、館内は非常に見通しが利きづらいフロアとなっています。そのためか後付けと思われる誘導案内がいたるところに貼り付けられていてその苦労がしのばれます。

 駅を出て北口へ向かうと、そのままペデストリアンデッキがつながっており、その下にはバスターミナルが設置されています。周囲は銀行やスーパーマーケット、雑居ビルが目立ち、おおよそ「湘南」のイメージとは違う普通の郊外拠点の駅前ですが、この北口こそが「茅ヶ崎の表玄関」です。

 

茅ヶ崎駅北口の「ラスカ茅ヶ崎」を望む。デッキの下側にはバスターミナル、タクシー乗り場等があります(撮影:かぜみな・2016年)

 

 駅前のデッキを左奥へ進むと見えてくるのが「イトーヨーカドー茅ヶ崎店」です。イトーヨーカドーらしからぬブラウンの外装に目を惹かれますが、中身は一般的なイトーヨーカドーです。お客さんは年配の方が目立ちますが、食料品を中心に支持があるようです。ビルの名称である「カギサンビル」の「カギサン」は現在でもB1階にて酒屋、たばこ屋として営業しています。

 

モダンな外装が「ヨーカドーっぽくない」イトーヨーカドー茅ヶ崎店(撮影:かぜみな・2016年)

 

 イトーヨーカドーの北側隣にはヤマダ電機テックランド茅ヶ崎店があります。駅前にヤマダ電機という立地は、LABI業態以外では郊外出店が中心のヤマダにおいては珍しいですが、お店を覗いてみると、生活雑貨やくすり、書籍なども取り扱いがあり、家電量販店としては変わった店舗であることが分かります。
 実はこのお店、かつて首都圏に展開していたディスカウントストア「ダイクマ」の店舗を転換した店舗なのです。♪ダイナミック、ダイクマ~のロゴサウンドを覚えていらっしゃる方もいるかと思います。そんなダイクマは2013年にヤマダ電機と合併になってしまったため、現在ではその名前を見ることはできなくなってしまいましたが、茅ヶ崎店のように、旧ダイクマ店舗は「家電量販店」らしくない雰囲気、品ぞろえのまま残されている場合が多いのです。ヤマダ電機で特価のトイレットペーパーが並ぶ……というのも面白い光景です。

 

ヤマダ電機に残る大店法銘板には「株式会社ダイクマ」の文字が残ります(撮影:かぜみな・2016年)

 

複雑怪奇? 茅ヶ崎の「イオン」事情

 

駅前のペデストリアンデッキを歩いていると……(撮影:かぜみな・2016年)

 

 イトーヨーカドー前へ降りていくエスカレーターの手前に、気になる看板があることに気づきました。茅ヶ崎にはイオンが2店舗も、しかもかなり近接したところに存在しているのです。どうしてこうなったのかというと、その2店舗の出自が違うことにその原因があります。
 看板の左側「イオン茅ヶ崎中央店」は、2000年に「ジャスコ茅ヶ崎ショッピングセンター」として開業し、一方看板右側の「イオンスタイル湘南茅ヶ崎」は、1995年にマイカルによる「茅ヶ崎サティ」として開業したお店なのです。つまりもともとは全く別の法人による店舗だったということになります。しかしマイカルは経営難によりイオンの傘下へ入ることになり、2011年の店舗ブランド統一を行った結果、「イオン茅ヶ崎中央店」「イオン茅ヶ崎店(旧茅ヶ崎サティ)」の2店舗が徒歩圏内に登場するという非常にややこしい事態になってしまったのです。
 その後しばらくは双方とも同じ商品、同じサービスを展開し、各店舗間の差異が見えないままでしたが、2016年7月に「イオン茅ヶ崎店」が、イオンの最新店舗ブランドである「イオンスタイル」へと改装・転換された結果、現在では一般的な大規模総合スーパー「イオン茅ケ崎中央店」、子育て、ライフスタイルを意識して売り場を作った最新鋭店舗「イオンスタイル湘南茅ヶ崎」と、その性格を異にすることとなりました。現在では2店舗間と茅ヶ崎駅を周回する巡回バスも運行されるようになっており、その機能による棲み分けが図られています。

 それではその2店舗を巡っていきます。イトーヨーカドーの北角から駅前通りの1本東側を南北に走る「一里塚通り」に向かい、通りを北へ進みます。一里塚通りも駅前の商業集積の一角を担い、商店が若干ではあるが並んでいます。国道1号線との交点「一里塚」を右折すると、すぐ左側に見えてくるのが「イオンスタイル湘南茅ヶ崎」です。

 

イオンスタイル湘南茅ヶ崎(旧茅ヶ崎サティ)。改装で外壁も塗りなおされてきれいになっています(撮影:かぜみな・2016年)

 

 傾斜地に建てられているため、国道側のエントランスを入ると2Fに繋がる構造となっています。改装前の「イオン茅ヶ崎店」時代は、天井も低め、サティ時代から変わらない売り場で、雑然とした印象のお店でしたが、改装・転換によって最新仕様の売場へとリニューアルし、一気に垢ぬけた印象です。若者や子連れ世代を強く意識した売場が作られており、売場の真ん中にカフェが設置されていたり、売場と子どもの遊び場が一体化し、そこでは随時イベントが開かれていたりと、随所に工夫が凝らされたお店になっていました。茅ヶ崎の商業施設の中では「湘南」のイメージを一番意識している気がするお店です。

 

イオン茅ヶ崎中央店(旧ジャスコ茅ヶ崎店)。こちらは規模も大きく、2000年代のジャスコの雰囲気が残っています(撮影:かぜみな・2016年)

 

 続いて、「イオン茅ヶ崎中央店」を見に行きます。茅ヶ崎駅入口交差点まで国道1号線を西に進み、右折して通りを北上すると、左側に「イオン茅ヶ崎中央店」が見えてきます。交差点を渡ってお店に入ってみると、巨大なイオンの売り場に少しばかりの専門店が入居しており、2000年代に開店したお店によく見られた、イオンが衣食住をまとめて取り扱う、大きな総合スーパーとしての「ジャスコ」の雰囲気が残っていました。お店の外、南側の道路には寒川方面に向かう路線が発着する「ジャスコ前」という、名前が昔の店舗名のままになっているバス停もあり、「ジャスコ」の要素が随所に残っているのが楽しいところです。

 

店名は変わっても変わらないバス停(撮影:かぜみな・2016年)

 

茅ヶ崎の「アメリカン」を見に行く

 「イオン茅ヶ崎中央店」を出て、最後に「アメリカ」を感じられるスーパーを見に行きます。「イオン茅ヶ崎中央店」の南側の道を西に歩いて、川を渡ると、右側に工場が見えてきます。この工場は自動車のスチールホイールでの国内シェアトップを誇る「トピー工業」の神奈川製造所で、この工場では建設機械用部品を作っており、工場の出入口から大型のトレーラーが道幅いっぱいを使って出入りする光景が見られます。

 トピー工業の西角を右折し、北方面へ向かうと、今度は「フレスポ茅ヶ崎」が見えてきます。ここはツルハドラッグ、セリアなどが出店している普段づかいに最適といった様子の小規模モールですが、「アメリカ」を感じられるスーパーマーケットは、ここにあります。名前は「エイビイ茅ヶ崎店」といい、横須賀市に本部を構えるスーパーマーケット「エイヴィ」が運営しているスーパーです。

 

エイビイ茅ヶ崎店。すでに外装からして簡素、シンプルを追求していて倉庫のようです(撮影:かぜみな・2016年)

 

 「アメリカ」のディスカウントスーパーを、そのまま日本へ持ち込んだような空間で、「日本の商品」を買うことができるという、不思議な「異国体験」ができるのです。まず店舗の外観を眺めると、お店のロゴは1か所しかなく、実にシンプルです。中に入ると、外見からは想像もできなかったような奥行き、高い屋根で柱のない大空間に圧倒されます。棚も一つ一つが大きく、そこに商品が整然と置かれており、無駄な装飾やPOPなどは一切ありません。さながら「工場」のような売り場です。
 店員の姿もほとんどなく、商品を置くことだけに特化した売り場だという印象を持ちます。一般的なスーパーマーケットによくある「広告の品」表示や壁貼りのチラシもなく、HPを確認したところチラシの製作も行っていないようです。徹底したコストカット意識、合理化によって価格を下げるというテーマのお店なのだそうです。ディスカウントストアは日本にたくさんありますが、ここまで「徹底」されているお店は見かけません。日本のスーパーマーケットの常識からすれば「異質」な売り場です。しかし商品の安さからかお店は大盛況で、平日だというのに各レジ10人以上の列ができる大混雑となっていました。
 店内では写真撮影ができず、その様子が伝えられないだけに、ぜひ訪れてみてほしいお店です。
 お店を出て、駐車場の入口を抜け、エイビイの前にある「保健所前」バス停に向かいます。今度は寒川行きのバスで、茅ヶ崎市の郊外、そして寒川町に向かいます。サザンじゃない茅ヶ崎の探検に向けて、探検はさらに続きます。

多様な「差別化」と、「意外と堅実」な茅ヶ崎の商業

 茅ヶ崎市において、いわゆる「湘南」を体現したようなエリアは、東海道本線の南側へ広がっています。一方で今回見てきたように、商業施設の集積をみれば「生活の場」としての茅ヶ崎は、実は駅の北側に展開しているのです。
 さらにその消費の様子は、非常に「多様」でした。駅前で中高齢者に支持があつい「イトーヨーカドー」、駅前で若年層へターゲットを絞った「ラスカ」、クルマ利用で高感度な若者向けの「イオンスタイル」、クルマ利用で低価格路線に特化する「エイビイ」、「イオンスタイル」と「エイビイ」の中間に位置づけられそうな「イオン茅ヶ崎中央」……とその差別化の様子が見て取れます。
 その一方で奇をてらったような変わった店舗も少なく、その商業の様子は意外と「堅実」であることもみえてきました。その中で近年現れたイオンスタイルやエイビイは、そうした茅ヶ崎の商業に一石を投じる存在になりそうです。
 ここ数年は東隣の辻堂に「テラスモール湘南」、西隣の平塚に「ららぽーと湘南平塚」、そして平塚市内にイオンモールの計画もあるなど、市外での大規模商業施設の開業が相次ぎ、茅ヶ崎は半ばそういった2地域に挟まれる形となっています。
 茅ヶ崎の「多様」な、しかし「手堅い」商業集積が、これらの商業施設とどう向き合っていくのか、今後も注目です。

参考文献

『パソコン子会社、ヤマダが合併、来月。』日経MJ(流通新聞),2013/06/17 付,pp.10.(2016年11月28日閲覧)
『ヤマダ電機のダイクマ買収、神奈川県内、一気に攻勢――家電量販店の戦い激化。』日本経済新聞地方経済面神奈川,2002/04/11付, pp.26(2016年11月28日閲覧).
『ジャスコ、環境に優しい新ブランド、デザイナーに永沢氏。』日経流通新聞,2000/09/26付,pp.7(2016年11月27日閲覧).
『茅ケ崎で大型店競争激化、ニチイが来春出店――ルミネ、増床し生鮮品強化。』日本経済新聞地方経済面神奈川,1994/11/30付,pp.26ページ(2016年11月27日閲覧).
エイビィHP:http://www.ave.gr.jp/(2017年8月5日最終閲覧)

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渦森 うずめ

都市という現実の中に漏れ出す夢や理想を商業空間に見出して遊んでいます。逆にコンテンツという夢や理想から現実を救い上げるのもすき。つまりは理想と現実を渡り歩く放浪者(?)。消えそうなファーストフードチェーン「サンテオレ」を勝手に応援中。